アユミギャラリー出版取り扱い書籍の紹介

AYUMI GALLERY

■『まちと建築を再生する』
著者/鈴木喜一
風土舎刊/2002.4.1/310ページ
本体価格1967円 
● ISBN4-901631-15-2 


内容紹介
 2002年春から開講した武蔵野美術大学造形学部通信教育課程の「建築論」のテキストとして鈴木喜一が執筆。最新のワルシャワ紀行のスケッチなどをカラーグラビアに、つくることを主眼とした20世紀までの建築のあり方に警鐘を鳴らしている。また、登録文化財制度や建築再生プロジェクトの実践的なレポートなども掲載。 

書 評
 

 ……時森 幹郎(針谷建築事務所・神楽坂建築塾研究生)

「もう、いいかい?」「…まあだだよ…。」「…もういいかい?」「…まあだだよ…。」「…もういいかい?」「…もう…もういいよ。」汽車の扉が閉まり、手をバイバイする快。『北の国から』最終作となる『2002遺言』終盤のクライマックスシーンである。汽車はまもなくゆっくりと動き出し、五郎は孫の名を呼びながらその姿を追って、汽車にすがりつくように走り出す。「かいーっ!」「かいーっ!」「お父さん、危ないから…。」蛍が諭すが五郎にはもはや聞こえないようだ。やがて、汽車は五郎を引き離しホームを後にするが、五郎は線路に降りてなおも走り続ける。「かぁいーっ!」「かぁいーっ!」声は叫び声になっている。その背中を見守る純。そして、ついに諦めた五郎は線路の上にガクッと跪く。と同時に最後は「ほたるーーっ!」の叫び声が響いた時、見る者の脳裏には、『北の国から』のいくつものシーンがフラッシュバックされているのであった。
 『北の国から』は1981年から放映され、今回まで実に21年に渡って撮り続けられてきたテレビドラマで、倉本聰のライフワークと言える作品である。その撮影は放映される前年の1980年から始まっているが、ちょうどその年の冬、著者は会津田島にいた。大内宿の実測調査に参加した帰りだったと記している。会津田島では別のドラマが展開されていたのである。その5年後の冬、物語は、取り壊される予定であった江戸時代の民家を移築保存する場面にさしかかる。それから、現在では全国有数の登録文化財がたくさんある町となった会津田島での出来事が克明に描かれている。『北の国から』のテーマをバックに読んでみると泣けてくるから不思議だ。
 登録文化財といえば、文化庁にてこの制度の立上げに尽力した後藤先生の話なども交えながらその意義について語っている。ここはさしずめ『シンドラーのリスト』の気分だ。処刑寸前で救出された建物たち、そして今ではその「まち」になくてはならないものになっている話には、またもや泣けてくる。
 しかし、多くのものは救出されずに解体されてしまうのが現実のようだ。川越の壊されていく民家では、せめてもの償いとして実測調査をして記録に留めている話がある。このドラマには平井堅の『大きな古時計』がお勧め。「真夜中にベルが鳴った おじいさんの時計 お別れの時が来たのをみなに教えたのさ」なんて歌われたら、やっぱり泣けてくる。でも、泣けるものばかりではない。中には地道な調査による建物再生の丁寧な報告書があるが、こういった部分は建築関係者でない限りは、はっきり言って退屈だろう。それでも泣きたいあなたは、この報告書となっている現場へ来て、それこそ手考足思する必要がある。実際に体験して得ていくものが増えていくのに比例して、退屈な報告書から「なるほど」と思えるところが出てくるはずである。そうして、あなただけのドラマが出来あがっていくのである。