AYUMI GALLERY

父の肖像

高村 哲


千住の長屋から竹の塚への引っ越しはタクシーの数往復で終わった。そこは浅緑に広がった田畑の中の広い池の前で、風が気持ちよく波紋を作りながら渡り良い場所だったが、まだ家は完成しているわけでもなく階段のない二階に梯子で上がり、粗壁、天井無しの部屋に一部古い畳を敷いて住み込んだ。トタン板で覆った仮のトイレやドラム缶の風呂。毎日、薪割りと井戸の水汲みが日課となり、トイレのくみ取りもやり、営々と家作りは続けられ、完成まで3年を要したのだった。
父がタクシーの非番の日に友人達と家を建て始めた時、どうも本人は先のことまで考えていなかったようで、給料が入ると柱を買い、壁を塗り、時には足場から落ちて怪我をしたりと奮闘したが、平屋のつもりが二階になってしまい、建て前の時にお客さんに「この家はずいぶんまっ四角だけれど。」と言われて気づいたらトイレも台所もなく、急遽裏に付け足したり。池を見て気分良く酒が飲めるように舟底天井にしたりと、日々がすぎていった。 それから、数百メートルもレールを敷いて運んだり、削ったり足したりしながら、いつのまにか美しい町並みの中に古いながらももっともらしい顔で収まっているが、スケッチしようと思ったら、どうしても出来た当時のおおらかな姿が浮かび、雨が降ってももう濡れなくてすむことや、もらい水に走ることもなくなり、好きなときに水が飲める喜びなどがよみがえってくる。
建物とは人が気持ちよく生きて行くだけで良く、本来そんなおおらかなものであったのだと思いながら筆を走らせた。なんだか父の肖像を描いているようであった。

建物名:(自宅)
竣工年:不詳
建築家または棟梁:不詳
所在地:東京都足立区

 

近代建築史への旅・スケッチ展 vol.8
仮想展覧会

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