AYUMI GALLERY

木香ばらの家

中島 理慧


初夏、淡い黄色の木香(もっこう)ばらが路上へ降り注がんばかりに咲く。かねてから気になっていた近所の家に、思いを打ち明けスケッチをさせて頂くまでは勇気が要る。しかし描き始めればスケッチブックが居座りを正当化してくれる。ドシャメシャのパースペクティブは初恋の病弊なり。
カーデザイナー・小室克介さんの父上は医師。患者であった建築家・佐藤秀三にこの家の設計・施工を依頼。佐藤秀工務店はふだん、住宅よりは別荘やホテルなど、少し洒落っ気のあるひねったものを手掛けていたそうだ。「多分これは、社長自らが作ったなかで一番小さい建物じゃないかなあ」
令夫人・小室紀子さんが、小さな花でいっぱいの木香ばらの枝を紙コップに活けて、スケッチ中の私の前に持って来てくださった。

スケッチする目前を、犬を散歩させる人がよく通る。花を、家を眺めながら。みなこの道を定例のコースにしている。いい建築はこうして地域の治安維持にも少しばかり貢献するのかもしれない。


建物名:小室邸
竣工年:1953
建築家または棟梁:佐藤秀三
所在地:東京都調布市

 

近代建築史への旅・スケッチ展 vol.8
仮想展覧会

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