鈴木喜一建築計画工房の連載

月刊『ニューハウス』連載 家をつくる道具たち WEB版

第3回 電気工事

この記事は2000年9月号に掲載された内容を再構成したものです


 

 家を建てる時、一番最初に来て一番最後に来る職人は?
 更地の時に仮設電源を設置して、最後に全部の設備をチェックに来る電気工事士ではないだろうか。

 今回訪ねたのは第一種電気工事士の都築稔さん。地元では、博識で確実な仕事をする若手職人として通っている。

 電気工事はとにかく道具が多いが、基本は電線接続用工具。

 まず電工ナイフ。電線やケーブルの被覆を剥いだりさまざまな切削に活躍する必携道具。ペンチニッパーで切れない太いケーブルにはケーブルカッターが登場する。ケーブルストリッパーは見事な動きをするすぐれ物。「鮫のアゴ」がガチッと電線を咬んだと思うと、アゴの一部がグーッと手前に引っ張られ、芯を傷つけることなく被覆が剥けるという仕組み。裸にした線同士は、必ず圧着スリーブで押圧して結線する。電線種によってスリーブのサイズが決まっていて、JIS規格の圧着ペンチによって小さな刻印がつく。

 電線同士の結線は、必ずジョイントボックスを使う。ネズミが噛らないように、またホコリなどからケーブルを保護するため。圧着スリーブやワゴーと呼ばれる端子でしっかりと繋いでから、結束部分を透明のボールの中にカチッと収める。

「電気工事士とはつまるところ『電線の保護の資格』だと思います。難しい回路や計算の知識も大切ですが、結局は一本一本の電線を、例外なく完全に保護し、絶対に漏電や火災を起こさないこと。たったひとつのミスでも、それらよって住んでいる人が死ぬかもしれない。万一の火災の時には、現場検証で焼け跡の柱や梁に残っている、1センチの圧着スリーブの刻印の一つひとつをチェックするのです」と都築氏。見えないところの手抜きは絶対に許されない。

 充電ドリルはさまざまな職人が使うが、先に着ける電工用の錐(きり)は木工用とは少し違う。先端の刃状の突起がない。「建っている柱や梁には釘がささっていることもある。尖った錐ではすぐに折れてしまうから」。

 たしかに電気工事は、他の職種とのからみが多い。梁が邪魔で穴をあける時は必ず梁の上端に近いところにあける。また、柱を傷つけなくちゃいけない時も、構造的に重要でない柱を選ぶ。仕上げから構造までの幅広い知識とともに、大工道具もひととおり持って現場に向かう。

 スイッチやコンセントがつくところには、壁が塞がれる前にスイッチボックスを柱等に取り付ける。後からそれを見つけるのがボックス検知器。更に手の届かない壁の中や天井の線を捕まえて引っ張ってくるのが通し棒やフィッシャー(釣竿)。壁にエアコンのダクトの穴をあける時には、コアホルソーをドリルに着けて使用する。

 配線が終ったら検査用器具の出番。
 電線に触れずに流れている電流を測定するクランプメーター絶縁抵抗計回転計接地抵抗計でチェックする。 




 電気工事士は設計次元で「スイッチの位置」「コンセント位置」について意見を求められ、その結果「ああここにスイッチがあってよかった」と言われることもある。設計者とはまた違った「気配りの職人」といえるかもしれない。

 でも、最も気を使うのは「見えない」部分だという。電気工事の観点から見た「理想の家」は、「ブレーカーの落ちない家」である。そのためには30アンペアとか50アンペアという電気容量の上限の問題もさることながら、バランスのとれた、偏りのない負荷配分が大切なのだ。

 家庭で使われる電源は通常「単相三線」。分電盤を通して配分していくときに、全体で均衡が保たれる、つまり各部屋の負荷が同じ場合は中性線に流れる電流がゼロになり、安定する。だが実際は時間帯によって使う電気器具は違うし、季節によっても冷暖房機器の運転が異なる。一つの部屋でもヒーターとエアコンは別回路にしなければならない。こうした使用状態を熟考して、バランスのとれた配線をするのが電気工事士の仕事なのである。



 オール電化住宅やインターネット等の情報通信機器の普及により、電気工事の占める位置はますます大きくなるだろう。そして、その工事の出来栄えは、住む人にとっての住みやすさ・快適さに直結する。

 現場でぶつかりがちな他職種の職人さんたちと気持ち良く仕事をし、施主の使い勝手のためならば設計にも意見する。竣工したら「出番が来ないこと」を誇りとする。電気工事士の人柄は、一軒の家の設備の中に生き続けているのかもしれない。

取材協力/有限会社エムケイ(千葉県市川市)


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文とイラスト/渡邉義孝
……1966年生まれ。鈴木喜一建築計画工房所員。東京を描く市民の会理事。著書に『風をたべた日々』(日経BP社)。