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板金屋さんは、金属葺き屋根の施工はもちろん、基礎や建具にからむ雨押さえ(水切り)や雨樋の取り付けなどを担当する。 今回取材でお邪魔したのは市川市の(有)銅春(どうはる)の河野康男さん(62)。 百点にも及ぶ道具を倉庫に並べ、説明が始まる。 板金屋はどんな高いところに上るときにも、「つかみ」と「金槌」と「柳刃」は手放してはいけない。「三丁道具と呼んでいます。これがあればたいがいの仕事はできてしまうんです」と河野さん。 |
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まずつかみ。「掴み」の名の通り、金属板に折れ目をつけて掴みこみ、はぜをつくる基本道具。図のものは刃の長さが38ミリだが、大きいものでは9センチ位まで各種揃っている。 金槌では、鏨(たがね)を叩いたり釘を打つ。大工さんのものとは少し形が違い種類も多い。柳刃は、金属板を切るはさみの一種だが、刃先が微妙に湾曲している。 柳刃の他に、長く直線を断ち切れるまとも(直刃)や、小さなカーブを切るえぐりがある。それぞれに刃の長さのバリエーションがあり、それぞれ「何寸何分のまとも!」などと一目で見分けるのは大変だろうなどと思う。 道具を研ぐのも職人の大切な仕事。はさみ(切り箸と呼ぶ)は「使うよりも研ぐほうが難しい」。二枚の刃が咬みあう角度がわずかにずれても、とたんに切れ味が悪くなる。「切り箸の刃は手が触れても傷つかぬほど鈍いが、使い方が巧みであれば濡れた和紙が切れる」という。道具を最高の状態に保つことは、職種を問わず職人の基本である。
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切ったり折ったりの基準となる線を引くのがけがきばり。亜鉛鉄板でも銅板でも鉛筆では薄くて見えないため、今でもこれらの針が使われる。 拍子木と刀刃は、ハゼを組むための基本道具だ。金属板のへりを叩いて曲げ、二枚を咬み合わせることで接合するハゼは、加熱や接着剤を用いずに、簡単にかつ強く結合できる工法で、板金加工の基本といえよう。一回折っただけのハゼ同士ではまだ弱いので、ハゼ殺しで更に噛ませて固定する。 ハンダゴテは一般的な工作用と違い、大きな槍形の頭が銅でできている。「頭の小さい電気ゴテはだめなんです。銅板に熱が奪われてすでに温度が下がってしまうから」。携帯用コンロや七輪に炭を入れて、現場を廻ったという。 鏨(たがね)は銅板打ちだしや剪断(せんだん)に使われる。カネタガネの「カネ」は金属の意味ではなく、直角(矩=カネという)をカチッと出すためのもの。 |
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板金屋の仕事は、ここ数十年で様変わりした。 かつては建築板金と、装飾的な錺(かざり)職人、金属製日用品などを修理する鋳掛(いかけ)屋の仕事ははっきり分れてはいなかった。 たとえば、コマノツメ(駒の爪)・イチョッパ(銀杏葉)・ボウズ・ウノクビなどは、尖った方を木台や鉄台に刺して立て、銅板の縁を折ったり裏からたたき出す道具でもあるが、家庭のヤカンの修理にも活躍したという。傍で銅春の若い職人たちも珍しそうに眺めている。「今どきは鍋を直して使うなんて人もいませんからね」 これら鋳掛屋時代の道具はもう十年以上使っていないそうだ。 板金屋さんが気をつけることは、まずケガしないこと。高所作業に加えて、角やバリで簡単に手足を切ってしまう。そして雨漏りがないこと。それは同時に納まりに無理がないことだ。
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「仕事は教わるものではなく“盗み取るもの”」それが河野社長の持論である。 「覚えたい気持ちがあれば自然とまねをして上達する。身体で覚える他はない。やる気がなければ手取り足取り教えてもダメ」――大正時代に創業した父親の言葉を、今度は自分が、後を継ぐ息子さんに言い伝える。 今では樋を銅板でつくることもほとんどない。安上がりで丈夫な既製品が普及し、マニュアルを見れば相談する必要もない。その一方で、新しい工法が生み出されていることも事実だ。 「確かにあまり考えない場面が増えたけれど、七つ道具(前述の三丁道具+サシガネ、拍子木、刀刃、ケガキ針)がきちんと使えれば、どんな仕事が来てもできるのです。応用はいくらでも効く。それができないということは考えないということ。それから、私たちにとっては年間何十棟もの現場の一つであっても、施主にとってはその一軒こそが生涯のたった一つの住まいです。毎朝、お客様の身になって現場に向かう。時代が変わったとしてもこのことだけは変わらないと思います」 取材協力・有限会社銅春(千葉県市川市) |
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文とイラスト/渡邉義孝 |
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