鈴木喜一建築計画工房の連載

月刊『ニューハウス』連載 家をつくる道具たち WEB版

第25回 注文家具工事その2

この記事は2002年8月号に掲載された内容を再構成したものです


 

 使い込むほどに味わいが増す――そんな木工注文家具。群馬県利根村で地元の広葉樹を使った家具づくりを続ける小美濃厚夫さんの工房での取材、二回目の今回は主に小型の道具を見せていただこう。

 削る基本はやはり(かんな)。普通に平面を平にするのはお馴染の台鉋。一方、家具工事に独特なのが反り台だろう。椅子の座面を凹型に刳りぬく時などに使う湾曲した鉋だ。良く見ると「縦方向の湾曲」と「縦・横ともに湾曲」の二種類がある。後者を特に四方反りと呼び、椅子の座板の「お尻のへこみ」など三次元的な加工に重宝する。

 刃が直角に付いた台直し鉋。これは「鉋のための鉋」だ。傷ついたりゆがんだ鉋の台を削るための特別な鉋。鉋の台はカシなどの堅木で出来ているため普通の刃物では歯が立たない。そこで90度に立てた刃がいるのだ。

 

 ノコギリには、縦挽き刃と横挽き刃のついた両刃ノコ、片刃で背金付きの胴つきノコ替刃ノコ、材を途中から切ることができるあぜびきノコがある。

 ホゾの加工などで多用する鑿(のみ)は大小約30本も。スパナ類は機械の修理調整に使うものだが、これも30本近くある。

 アイロンがなぜここに? 実はちょっとした傷ならば、濡れタオルをあててアイロンをかけると治ってしまうのだ。

 

 45度のひし形につくられた留め型定規は、「留め」と呼ばれるコーナー部の切断の型になる器具。スコヤノギスも精密な作業には欠かせない。
 変わったものではエアー式サンダー(オービタルランダムサンダー)。円板状の摩擦面が微妙にずれながら回転して曲面を仕上ることができる。

 小美濃さんは塗装も自分でやる。やはり木目を活かしたナチュラルな仕上げがメインなので、塗膜をつくらないドイツ製のオイルフィニッシュが多い。

 接着時に材同士を締めつける道具にハタガネクランプがある。市販のハタガネの他に、全ネジと木片で自作したものも。少し大きなクランプは軸の部分に水道管を利用するので、長さを自由につくることができるし安上がりだ。 

 最近、木工家具の業界で流行っているのがビスケットジョインタ。日本の雇い実(やといざね)のアメリカ版といったところ。ビスケットのような板で材同士をつなぐためのホゾ孔穿孔器だ。「でも強度的に日本のホゾと同等なのかどうか……。評価を決めるのはもう少し時間がかかるかもしれません」。




 「自分が作った家具を、百年は使ってほしい」と言う小美濃さん。そのためにはメンテナンスが大切だ。テーブルなどは十年・二十年経つと脚廻りがぐらつくこともある。その時はまた工房に預かって接合部を締め直してやる。これが長持させる秘訣なのだ。「そのためにも、お客さんとの直接のおつきあいが理想なんです」と語る。
 傷がついたら削り直せばいい?
「ええ。でも家具の傷は、ぼくはそんなに嫌いじゃないんです。だってどれも家族の生活の痕跡でしょう。歴史を加えて味が増す。傷はそんなふうに楽しんでほしいと思います」。




 それはもちろん無垢の木だからこそ言えること。彼の話を聞きながら、私はイギリスの民家での経験を思い出した。――新品にはあまり価値はない。家も家具も何十年、百年以上も使い続けることが誇りである国。さまざまな人の歴史を刻むことでますます美しく輝くアンティーク家具には、新しい既製品では醸し出せない癒しの感覚に充ちている。
 確かに注文家具は既製の合板製家具に比べれば高価である。しかし寿命を考えればけっして高い買い物ではない。

取材協力/オイコス・ワークショップ(群馬県利根村)
http://www.d3.dion.ne.jp/~omino/index.htm


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文とイラスト/渡邉義孝
……1966年生まれ。鈴木喜一建築計画工房所員。東京を描く市民の会理事。著書に『風をたべた日々』(日経BP社)。