僕のとなりの国にいるちがう顔の人たち


VOL.24

イラワジ河の日記

ミャンマー・マンダレー  Sketch by Kiichi Suzuki

ミャンマー・マンダレー


旅に出ると必ずたまってしまうものが3つある。水彩のスケッチ、写真、もう一つは大量の日記である。日記は移動しながら、その場その場で感じたことを万年筆でメモしている。例えばこんな具合に記録している。
○早朝、まだ闇の町マンダレーには馬車が走っている。馬のひずめの音が高く響いている。道を掃除する人がいる。マンダレーの星はさすがにきれい。
○AM5:30、スロウ・ボートは闇の中をバガンに向けて進みだした。白い鳥が群れをなして飛んでいる。人家のあかりがちらほらと見えるマンダレーの町。いくつものパゴダが見える。今、イラワジ河にかかる大きな橋を通り抜ける。
○ボートは時々、船着場に停泊して土地の人たちを乗り降りさせていく。大樹の下から狭い歩み板が船に向かって一枚渡されているだけの船着場。そこには木の荷台が2台、牛、子供たちがいる。小学生は男も女も、緑のルンギを腰に巻いていて、手にお弁当を持っている。誰もが肩から白い布袋を下げている。女の子のほおには彼女らの顔よりも白い肌色の粉が塗られている。大樹の葉が風にそよそよと揺らいでいる。
○風が気持ち良く流れている。帆船が行く。ゆっくりと風景が動いている。
○見飽きることのない、見たこともない懐しい風景が続いていく。
○AM1:00、女たちは頭上に荷物をのせて歩いている。身にまとっている布は、あざやかな色彩。パゴタが見える。一面の畑、牛車がほこりをたてて道を行く。
○岸辺で洗濯をしている女。石鹸をつけて髪を洗う女。
○キャビンに席をとった酔狂なツーリストたちはベルギーから来た2人とダーティーなドイツ人。ぼくが描くスケッチを見ながらニコニコしている。うまいものだと感心しながら、自分たちには描けないから残念だと首を横に振っている。
○PM2:15、バンブーハウスの美しい集落が見える。水面下のパゴダ、水上に浮かぶ小さな家々……。家も人もみな無名に返されている。
と断片的ではあるが、ぼくの旅日記はこんな感じの走り書きでとめどなく続いていくのである。

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