公募写真展
人間漂流
Vol.3

HADE AWAY 消えた上田東横劇場
森山 定一 
Moriyama Sadaichi

 僕がそこを通りかかったのは、夏の暑い日だった。映画上映をやめて久しいと言う。きっぷ切りの窓口のガラスが割れていて、その、風よけに、昔ゴッホに憧れていた青年が描いたのではないかと思われる「ひまわりの絵」を置いている。昔、モダンなものには、タイルの化粧を施したと言う。たばこ屋、パーマ屋、床屋、医院、そして映画館。僕は一度もこの劇場には入ったことがない。この劇場のにぎやかなりし頃も知らない。1998夏、4度ほど通った。1999夏、更地となったところに真新しいコンクリートのタイルが敷き詰められ、公園になっていた。さんちゃん、みっちゃん達が、路地を抜いて走って行った「夢の世界」は無くなった。そして、どこからともなく、あの映画館の臭いが漂ってくる気がした。風はなかった。強い日ざしが照り返しているだけだった。

AYUMI GALLERY

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