神楽坂建築塾終了論文

地方の公共建築に対する建築家の関わり方についての一考察

高橋啓介

平成13年3月5日

 

 伊豆半島南部にある地方自治体により建設された公共観光施設を材料として、地方の公共建築に対する建築家の関わり方について考察を行ってみたい。

 ここで取り上げる施設は、人口1万人ほどのM町に、17年ほど前に建設された美術館と、人口3万人のS市に昨年建設された歴史資料館的な観光施設である。

 2つの施設の大きな共通点は、当時の首長の強力なリーダーシップの下、有名な建築家により設計され、建設されたという点である。(ただし、M町の美術館は低い予算で建設されたのに対し、S市の観光施設は30億という大規模な予算(自治省の補助事業として)で建設されているという相違点もある。)

 

 M町の美術館を設計した建築家は、当時若手建築家として名前があったものの、この美術館の設計により、有名建築家となったと。彼は、この美術館の設計を機会に、松崎町に関わり続け、現在でもM町にて、施設の設計を行ったり、講演会を行ったりしている。

  ひとりの有名建築家が、20年近くも一つの町に関わり続けてきている。という事実が、町の職員をはじめとする地域住民のまちづくりや建築に関する意識を非常に高くしている。実際、M町で彼の講演会などを聞きにいくと、漁師のおじさん達が聞きに来て、積極的に質問をしていることに驚かされる。

 

 S市の観光施設は、昨年の開館以来、そのデザインも含め施設の運営等に関し、市民からのクレームが持ち上がっているが、今のところ、設計者から市民に対する働きかけ等はないようである。昨年開館した施設であり、今後のどのように展開していくのか興味深い。

 

 M町の美術館は、地方の公共施設として、町と建築家の関係がうまくいっている事例と思われる。

 これを参考に、地方の公共建築を建設する際に求められる、都市の建築家像を以下に述べる。

・設計にあたっては、公共建築を育てていくのは地域の人たちであることを認識し、地域住民に対してそのデザインコンセプト等を説明するとともに、十分な対話を行っていく。

・その地域の住民には見えないこと、言えないことを地域住民や自治体の職員に伝えるとともに、他地域での事例を紹介する等により、外からの風を吹き込む役割を果たす。

・施設の竣工後も、長期的に関わり、施設の活用方法や、周辺施設、商店、住宅との関わり等を含め街づくりに関与する。

 

 また、自治体の行政では以下のことが求められる。

・基本計画の段階から、地域住民の意見を聞く。

・建築家の選定にあたっては、自らのデザインに固執するのではなく、地域のことを理解し、地域住民の意向を十分反映させるようにする。

・ひとりの建築家に、単体としての建築だけではなく、周辺施設の整備、まちづくり等にも併せて関わってもらえるようにする。

 

 

 町(地域住民及び行政)と建築家との理想的な出会いは、町を活性化させ、建築家を成長させる。そのことを建築家と自治体職員が十分理解し、まちづくりに取り組んでいけば、日本各地に個性のある町がうまれることが期待できる。