神楽坂建築塾 第三期 修了論文

建設廃棄物について知る

  建築塾 第3期塾生 桐原 満

目次

1.廃棄物とリサイクルに関する法整備

2.建設分野におけるリサイクルへの取り組み

3.今後の課題

4.対策として

  

はじめに

 修了論文にこのテーマを選んだきっかけは、昨年行った住宅の解体工事にあります。その工事というのは築25年のごく一般的な木造住宅のリフォームで、軸組み以外の部分はすべて解体するというものでした。内部の解体を担当したのですが、機械などは一切使わずにすべて手作業で工事を進めていきました。

 この解体工事では「発生したゴミはできる限り分別する」というひとつの目的を設定しました。木材からは釘や金物をすべて取り除いたり、壁を壊す場合も左官材料とラスボードは分けたりと、徹底した分別を心がけて作業を行いました。

 最初のうちはゴミの発生量の多さばかりが気になっていたのですが、次第にゴミの処分のことについて気になり始めたのです。それは、現場では細かく分別していても最終的には全部一緒に業者に持ち込むので、その後、どのように処分されるのかということについてまったく分からなかったからです。また、木材などは有効な資源としてなにかに利用することができるのではと考えるようになりました。

 しかし、このようにゴミの処分や再利用について気にはなっても、実は自分がそのことについて何も知らなかったということに気づかされました。建築に関わる者として、またそれを使う者として、建物が壊されたときのことをもっと知しっていなければならないと痛感しました。そのため、建設廃棄物の現状について調べようと思ったのです。

1.廃棄物とリサイクルに関する法整備

 日本では平成12年6月2日に「循環型社会形成推進基本法」が公布されました。本法の趣旨は、循環型社会の形成を推進する基本的な枠組みとなる法律として、廃棄物・リサイクル対策を総合的かつ計画的に推進するための基盤を確立するとともに、個別の廃棄物・リサイクル関係法律の整備と相まって、循環型社会の形成に向け実効ある取組の推進を図るもの、とされています。この「循環型社会」とは、廃棄物等の発生抑制、循環資源の循環的な利用及び適正な処分が確保されることによって、天然資源の消費を抑制し、環境への負荷ができる限り低減される社会をいいます。

 本法では対象となる物を価値の有無に関わらず「廃棄物等」とし、廃棄物等のうち有用なものを「循環資源」と定義しています。またその処理についても [1]発生抑制、[2]再使用、[3]再生利用、[4]熱回収、[5]適正処分との優先順位が設けられています。この他には、国や地方自治体、事業者の責務などが盛り込まれています。

 循環型社会形成推進基本法の他にも,多くの廃棄物・リサイクル関連の法律が整備されています。図に日本の資源循環関連の法制度をまとめました。

 

 環境基本法 

 

 循環型社会形成推進基本法 

 循環型社会形成推進基本計画(2003年10月1日までに策定)

 

 この中で建設分野に関連するものは「建設リサイクル法」ですが、正式名称は「建設工事に係る資材の再資源化等に関する法律」といいます。平成12年5月31日に公布され、同年11月30日から一部が施行されています。

平成14年5月30日から全面的に施行されます。

この図は昨年実施されたあるアンケートでの、「廃棄物・リサイクル関連の法律の中でどのような法律を知っているか」という質問に対する回答結果です。家電リサイクル法についてはニュースなどでも取り上げられたのでよく知られていますが、その他の法についてはほとんど知られていないといっていいと思います。

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2.建設分野におけるリサイクルへの取り組み

 @建設廃棄物の現状

 建設産業における資源利用量は、全産業の24億tのうち、約46%の11億tとかなり多くなっています。そのため廃棄物の排出量も当然多くなり、下図のように平成5年、平成9年ともに全産業の約2割を占めるまでになっています。

 

しかし建設廃棄物のリサイクルは伸び悩んでいて、平成5年では排出量に対するリサイクルの割合が全産業で77.5%なのに対し、建設産業では54.8%と低くなっています。

平成7年のデータでは、リサイクル率は土木系廃棄物で68%、建築系廃棄物で42%となり、全体では58%にとどまっています。リサイクルの内訳は下図のようになっています。

 このようにリサイクル率が低いと、結果的に最終処分へまわる廃棄物が多くなってしまいます。建設廃棄物の最終処分量は、全産業廃棄物の最終処分量の約4割を占めるといわれていますが、現在その受け皿となる最終処分場の残余容量が非常に逼迫してきています。そのためコストがかなり高くなってしまい、廃棄物の不法投棄にもつながります。不法投棄に占める建設廃棄物の量は平成5年で約9割、平成11年で約8割と減少傾向にはありますが、非常に高い割合となっています。

 今後、建築系廃棄物の排出量が急増することが見込まれていることからも、できるだけ廃棄物の量を減らし、より一層リサイクルを促進することが課題となるのではないでしょうか。

 

A建設リサイクル法について

 このように厳しい状況のなか制定された建設リサイクル法ですが、この法律では対象建設工事について、一定の技術基準に従って使用されている特定建設資材を現場で解体することが義務づけられます。分別解体をすることによって生じた特定建設資材廃棄物については再資源化が義務づけられます。

 

1)対象建設工事

特定建設資材を用いた建築物等の解体工事又は特定建設資材を使用する新築工事等であって、その規模が一定の基準以上のものとされています。

規模に関する基準については以下のようになっています

・建築物の解体工事については、当該建築物の床面積の合計が80F以上

・建築物の新築又は増築工事については、当該建築物の床面積の合計が500F以上

・建築物の新築工事等で上記の工事に該当しないものについては、その請負代金の額が1億円以上

・建築物以外の工作物の解体工事又は新築工事については、その請負代金の額が500万円以上

 

2)特定建設資材

  ・コンクリート

  ・コンクリート及び鉄からなる建設資材

  ・木材

  ・アスファルト・コンクリート

 

3)特定建設資材廃棄物

  上記の特定建設資材を分別解体することで生じた廃材で、コンクリート廃材、鉄筋コンクリート廃材、アスファルト廃材、廃木材等になります。

 

 本法ではこのような分別解体や再資源化が対象工事受注者(元請け・下請け全て)に義務づけられるほか、発注者による工事の事前届出や元請業者から発注者への事後報告、現場における標識の掲示等が義務づけられます。また受注者・発注者間の契約についても触れており、解体工事における分別解体・再資源化について発注から実施までの手続きについて整備されています。次項でその流れを図に示しました。

 

3.今後の課題

 法制度が整備され、これからは建設分野においても資源の循環がより進むと考えられます。しかし建設廃棄物の再資源化についてはまだ多くの課題が残っているのではないでしょうか。以下に今後解決するべき問題点を挙げます。

 

(1)再資源化施設の不足

 リサイクルを促進していくには、再資源化を行う施設が必要です。しかし、地域的に偏在し、取り扱う品目が一品だけというのが大半で、充足されていないというのが現状のようです。このため、たとえ分別解体を行ったとしても、廃棄物を運び込む施設までかなり距離があるという状況になってしまいます。そうすると結果的に廃棄物の管理が不十分になったり、分別解体もおろそかになったりしてしまうのではないでしょうか。

 

(2)リサイクル市場の課題

 リサイクルの促進においてもうひとつ重要な点は、再生された資材が消費されなければならないことです。確かなリサイクル市場の形成が必要となるわけですが、コスト面の問題や、他の安価な資材の存在によって需要が思うように伸びないのが現状です。リサイクル材の需要低迷は、再資源化施設の増加にマイナスの影響を及ぼし、資源循環が進展しない要因となってしまいます。

また、リサイクル材がどこで売られているのか、廃棄物はどこで引き取ってもらえるのか、といったようなリサイクルに関する情報が不足しているということも影響していると思います。

 

(3)建物の寿命

 日本の建物は建てられてから取り壊されるまでの期間が、欧米諸国と比べると極めて短いとされています。おおよその住宅のサイクルはイギリスで141年、アメリカで103年、フランス・86年、ドイツ・79年となっていますが、日本では20年〜30年といわれています。このような状況になってしまったのは、経済成長期の大量生産・大量消費という社会情勢の中で、住宅においても建てては壊すというスクラップ・アンド・ビルドの方向へ進んでしまったからではないでしょうか。

 

(4)設計・施工時の問題

 建物をつくるときに、解体や分別の容易性、再資源化の可能性などが十分に考慮されるということはほとんどないと思われます。施工の段階で部材どうしを強く貼り合わせるため、解体時に分別が困難になるということもあります。施工方法や耐久性のため仕方ないとも考えられますが、そうなると解体時のことを考え、設計段階での建材の選択を慎重に行う必要もあるのではないでしょうか。

 

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4.対策として

これらの課題に対して、まず国や自治体が先導して有効な対策を行わなければならないと思います。そのひとつには法的な整備が挙げられます。

 「グリーン購入法」(国等による環境物品等の調達の推進等に関する法律)は、国、独立行政法人、特殊(とくしゅ)法人、地方公共団体、事業者及び国民の責任として、リサイクル製品などの需要を促進するための措置を講ずるよう努めることなどが盛り込まれ、リサイクル市場の拡大を促進する法的な整備もされています。

 また、国土交通省が建設リサイクル法の基本方針に基づき開発を進めている「建設副産物情報交換システム」というのがあります。循環型社会の構築と建設リサイクルの推進を目的として、コンクリートや木材等の建設廃棄物に関する情報交換を推進するためのインターネット等を活用したシステムです。

 このシステムでは、建設工事に関わる人々が再資源化やリサイクル材の活用を行う場合に必要となる再資源化施設に関する情報、再資源化施設経営者への資源供給やリサイクル材の需要動向に関する情報などをリアルタイムに交換できます。

このシステム利用のメリットとしては

 @簡単な操作で建設廃棄物の排出先及び再生資源の購入先の検索が可能

 A工事現場から再資源化施設までの最短経路、距離及び運搬時間の検索が可能

 B適切な設計・積算・施工の策定に寄与

 C需要見通しに基づいた再資源化施設の稼働計画の策定に寄与

といったことが挙げられます。

 

 このような国による政策のもとで、なによりも大事なのはやはり事業者のリサイクルに対する意識だと思います。実際にどのような建設工事でも、ほとんどが工務店や建設会社によって行われ、廃棄物の処理を行うのももちろん専門の業者です。設計・建築・解体・再資源化の各段階で資源の循環に対する取り組みが不可欠ではないでしょうか。

 

 あるアンケートによると、ゴミ問題にどの程度関心があるか聞いたところ,「関心がある」とする人の割合が89.8%(そのうち「非常に関心がある」31.8%+「ある程度関心がある」58%)となり、逆に「関心がない」とする人の割合は10%(そのうち「あまり関心がない」8.5%+「まったく関心がない」1.4%)となっています。

また、ゴミ問題の原因は何だと思うかという質問には、

・「大量生産、大量消費、大量廃棄といった私たちの生活様式」(70.5%)

・「使い捨て製品が身の回りに多すぎる」(65.1%)

・「ごみの行方やその処理方法について、ごみを排出した人や企業の関心が低くごみの排出者としての責任の認識が浅い」(47.0%)

・「ものを再使用(リユース)したり,再生利用(リサイクル)したりするための取組が不十分」(46.9%)

・「不法投棄に対する規制や取組が不十分」(46.2%)

・「ものを製造したり販売したりする企業が、使用済みの製品を回収するなど、企業の責任や努力が果たされていない」(45.0%)

などの順となっています。(複数回答)

 このように人々のゴミ問題に対する関心はかなり高いことがわかります。しかし、実際に自分の近所に廃棄物処理施設や再資源化施設が建設されるとなると、ほとんどの人が否定的な意見を持つでしょう。おそらくこれは不法投棄や環境破壊といった悪いイメージから不信感を抱いているからではないでしょうか。こういった地域住民の感情は施設立地が進まない要因ともなります。

 処理施設や再資源化施設の増設は、現在の日本において循環型社会を形成するうえで最も必要とされていることです。このことから、一般の人々の廃棄物の処理・再資源化に対する理解を得るために、情報提供や技術開発、国による支援が重要ではないかと思います。

 

 循環型社会の形成には、生産→流通→消費→廃棄という一方通行の流れに、廃棄→再資源化→生産という資源循環の「輪」をつくりだす流れが不可欠です。多くの課題が残っている現在の日本において、循環型社会の形成に向けて国や自治体が必要な役割を果たすことは当然ですが、事業者や個人の意識が大切になってくるのではないでしょうか。

 

 

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