神楽坂建築塾 第三期 修了制作

飛騨にゅうかわスケッチ散歩

  建築塾研究生 宮原一美

 丹生川(にゅうかわ)村の昔ながらの風景を描くことで残していこうと思い立ってそろそろ一年になる。七年前、この村に来た頃にはまだ古いままの風情を残す民家がたくさんあったような気がしていたが、探してみると、思いのほか見つからない。考えていたより変化の速度が速いようで、ここ数年の内にずいぶんときれいな民家が増えた。きれい、というのは新築、改築、屋根の葺き替え等で見た目に新しくなったと言う意味だけれど、それは安房トンネル開通等もあって村民の生活が豊かになったことを意味しているのかもしれない。それは確かに喜ばしいことなのかもしれないけれども、描く対象としてみると、どうも心に触れないのである。昔の方が美しかったと思えるのである。描きたいものがなかなか見つからない。もう遅いのだろうかと思った。

 ところが、雪が降ると風景が一変したのである。新しい細工は覆い隠されて、目の前に昔ながらの風景が広がっていた。きれいになった民家も骨組みは昔のままであることが多い。それにまだここには新興住宅群も押し寄せていない。切妻の緩い勾配の大屋根、深い軒、漆喰壁に黒く塗られた柱や梁。白と黒のコントラストの強い無彩色の風景の中でそれらはまるで雪が積もることを前提にデザインされたかとも思える美しさだった。

 彩色スケッチに少し疲れていた。前からやってみたかった筆ペンでのスケッチをしてみることにした。ずいぶん昔に買ったままの和紙の画帳もあるし。


  

丹生川村下保(しもぼ)の民家。

 飛騨地方の農家は殆どそうであったように、この家も昔は養蚕農家であった。かなり大きな家。

 
 

丹生川村桐山広殿(ひろんど)。住み心地は悪くない。ここに来て七回目の冬。

 

 スケッチしている時に遠くから見ていて、招き猫のように見えるけどまさかな、お地蔵さんならわかるけど、と思って近くまで行って確かめた。石の招き猫だった。日当たりのいい斜面に、お墓等と並んでいる。

 田舎の人はなんでも自分でする。小屋くらいなら大工に頼まず自分で建ててしまう人も多い。うちの隣の亡くなったじいちゃんもそうだった。家の近くだけでもざっと九つほどもの小屋がある。

 

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