神楽坂建築塾 第三期 修了制作

「直」

  建築塾塾生 高橋美由紀

「陰翳」

 

「陰翳」とは、太陽の光、木、土、和紙、草などの自然素材のもつテスクチャーがつくり出す、極めて微妙で繊細な薄暗がりや薄あかり。町家、数寄屋のような伝統的な日本建築の中に「陰翳」は宿り、先人たちを癒してきた。そして今も、その空間を訪れる現代人のことを癒してくれている。

 現代の建築の中に「陰翳」のような趣きのある薄暗がりや薄あかりは、なかなか見当たらない。今や現代建築に必要不可欠になっている照明器具で、自然だからこそつくり出せる「陰翳」を表現するのは、不可能に近い気がする。しかし、イサム・ノグチは「AKARI」について「むき出しの電球は和紙の魔術によって、自然のひかり・・・太陽・・・となりました」と言っている。確かに「AKARI」のひかりは、「陰翳」の趣きや美しさを感じられる空間を演出してくれるから、世界中の人に愛されているのだろう。

 私は、京都、飛騨高山、金沢などの古い町並みを散策して、屋内に差し込む格子からのひかえめなひかりや、辺りが暗くなってから格子から漏れてくる薄明かりに「陰翳」を感じていた。今回、照明を製作するにあたって、実際に木に触れてみて、1本の大木の力強さからは想像できないような繊細さを感じた。傷つきやすく、柔らかく、いつもほのかに香り、温かい。和紙の日本的な美しさを、この木肌に見ていた。「むき出しの電球のひかりは、木の格子を通って、自然のひかりになる。」私は、木で、「陰翳」の趣きある美しいひかりに挑んでみた。

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