神楽坂建築塾 第四期 修了論文

和紙漉き体験の旅 in新潟県小国町

  神楽坂建築塾第四期生 齊藤美穂

目次

1.旅の日程

4.和紙の製品

2.小国和紙の歴史・特徴

5.終わりに 和紙漉き体験・神楽坂建築塾について

3.和紙漉きの工程

  

1.旅の日程

 

2003年1月11日(sat)・12日(sun)に新潟県刈羽野郡小国町での和紙漉き体験に参加。

(1日目)
足利から電車を乗り継ぎ小千谷へ。更に車で小国町へ・・・

片桐三郎さん(小国和紙生産組合長兼大工さん)宅訪問。小国町の概要・小国和紙の歴史などを聞く。

和紙漉き体験。工房見学と、楮皮むき・楮引き・和紙漉き体験をする。

再び片桐さん宅に戻り森・木のお話。板材で樹種当てゲームなどする。

小国町の人々との親睦会。地元の食材を使った美味しい料理をご馳走になる。

“民泊”普通のおうちに宿泊させてもらう。自動車教習所の教官をされている鈴木さん宅泊。

 

(2日目)
“どんど焼き”見学。小正月行事で、正月の飾り物を焼いた火でスルメやもちを焼いて食べる。これを食べるとその一年健康で暮らせる。

相野原観音堂。田んぼの真ん中にある観音堂。

お昼ごはん。つなぎにふのりとヤマゴボウを使用をしている“小国そば”をご馳走になる。

紙の美術博物館見学。室内一面に和紙を張った部屋がある。

解散。家路へ・・・

 

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2.小国和紙の歴史・特徴

 映和紙漉きは全国各地で生産されているが、小国町での紙漉きは江戸時代初期頃まで遡ることができる。天和2(1680)年、山野田地区で、20戸程が農閑期の副業として、冬に紙漉きをしていたようである。最盛期には40戸程あった紙漉も、現在は2戸になってしまっている。
 和紙の原料としては楮(こうぞ・クワ科の植物)、三椏(みつまた・ジンチョウゲ科)、雁皮(がんぴ・ジンチョウゲ科)等があるが、小国和紙は楮を使用する。楮は1年で和紙の繊維として使用できる大きさに育つ。原料の楮の栽培から、楮蒸し、皮引き、紙煮、紙叩き、紙漉き、雪中保存、紙干しと、すべて漉き手の一貫作業で行う。
 越後の風土に培われたこの独特の工芸技術は、昭和48年、国の無形文化財に指定された。
 楮の質は産地によって違い、紙の仕上がりを左右するが、小国産のものは肌が良く、柔らかいのが特徴である。

和紙の主な原料

(こうぞ)・・・・全国各地に分布し栽培が容易で収量も多く繊維も取り出しやすいことから、日本で一番多く使われている和紙原料である。書画以外の生活用具として使われる和紙のほとんどは楮の紙であり、奈良時代以前には既に使われ始めていた。

三椏(みつまた)・・江戸時代前期頃から製紙原料として使われ始め、徳川家康が伊豆でミツマタの製紙を奨励したと言われている。日本ではお札の原料として使われている。枝が三つに分かれることから三椏の名が付けられた。

雁皮(がんぴ)・・・奈良時代頃から楮に混ぜて利用されていた。当時はコウゾの繊維に含まれる粘り気を補うために用いられたが、トロロアオイから抽出されるネリを加え始めてからは、単独の原料になったと考えられている。繊維が短く緻密なためスベスベした感触の紙になりる。栽培ができないので野生のものを採取し、生産量も少ない。

楮・三椏・雁皮が和紙の原料として適している理由としては
・繊維が長く強靱
・繊維自体に粘りけがあるので絡みやすい
・繊維の収量が多い
・栽培をするなど、原料の入手が容易にできる
・比較的容易に繊維を取り出せる
・できあがった紙が使いやすい     などである。

 

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3.和紙漉きの工程

 

 和紙となるには
楮切り→楮蒸し→楮むき→楮引き→紙煮→紙たたき→紙漉き→かんぐれ→紙干し→裁断
といった一連の作業によってできあがる。

楮切り

 小国和紙の原料は楮とよばれる木の皮、くわ科の落葉低木で栽培が簡単で、繊維は太くて長く強靭、施肥や横芽かきなど手入れをしながら、楮を上手に育てることが、和紙作りの第一歩となる。楮は1年間に3mも伸び毎年秋に刈り取る。昔は、山からの道は牛の背、自らの背に楮を積んだ人たちが連なった。今は楮畑もすっかり少なくなり、原料確保が大変である。なんといっても太いものは直径が7〜8cmにもなる楮の根本を傷つけないように上手にメ楮きりカマモで刈り取るので、大変な重労働である。

楮蒸し・楮むき

 11月頃に刈り取られた楮は1mくらいに切り、大きな釜に入れ、桶をかぶせて約2時間ほど蒸す。これをあったかいうちに手で一本づつ皮をむく。蒸さないと皮は木の部分と離れず、きれいな繊維をとることができない。このむいた皮を「黒皮」と呼ぶ。楮の原木を100%とした時の歩留りは黒皮で15%になり、さらに紙になるとわずか4〜5%にしかならない。

楮引き

黒皮は表皮や汚れを削り、和紙に使う「白皮」を作る。包丁で皮を引っ張ることから「皮引き」という。繊維を切らないようにうまく黒皮を取り除く作業はなかなか難しい。また、小国では雪が多いため川で楮を洗うことが困難であり、洗わずにすぐ使用できるように皮引きを丁寧に行う。さらに、白くするために雪の上に並べて干す「雪ざらし」を行うと「白皮」になる。

紙煮

繊維がよくほぐれるように白皮をソーダ灰溶液で煮る。ソーダ灰を使う以前の時代は、下に小さな穴の空いた桶に木の灰を入れ、上から水をかけ、下から出る灰汁を使った。この灰汁で煮たものが繊維をいためずに一番良い紙になる。このよく煮た皮を清水でアク抜きをし、皮についているキズやチリを取り除く、この作業を「チリヨリ」という。この後雪ざらしをすることもある。

 水の量と楮の量を適度にし、3〜4時間かけて煮る。灰が入っているので煮こぼれやすく、火加減を調節しながら上手に煮熟しないと、のちに繊維がほぐれず失敗の原因となる。

紙たたき

皮は絞られ(絞り玉)繊維を短くほぐすためにたたかれる。昔は二人で組み、紙漉きが終わった夕方から行われた。子供が手伝わされることも多く、紙たたきがイヤで家に帰りたくない子もいたらしい。トントンという音がどこの家からも聞かれた。たたき板の上で楮皮を長い木づちでたたく荒打ちの後、水を加えながらコタタキをして仕上る。よくたたくことにより、1本の繊維のはじを枝分けさせ、漉いた時、繊維と繊維のからみををより強くでき、良い紙ができる。現在は打盤機を使用するようになった。その後ナギナタビーター(ミキサー)でほぐす。(パルプのように細かい繊維のものはホーレンビーターを使用する)この5?〜10?くらいの細かい繊維が綿のように見える。皮にキズや虫食いがあったりするとその部分は、かたく決してほぐれず、かたまりとなり、良い紙にならないことになる。

紙漉き

漉く時は漉き舟に水を張り、楮の繊維とニレを入れながら攪拌したものを簀桁(すげた)で繊維をすくい、よく揺り動かすと水だけが簀の目から落ちる。少しづつ繊維が簀に残る微妙な水の動きをかりてですくう。「二レ」は、トロロアオイの根からとるノリのことで、適度な粘り気が繊維の一本一本を包んで分散を助けるが、接着カはない。繊維がうまく絡みあって紙を作るのである。

ニレの粘りは時間や温度によって変わるため、同じように漉いたのでは厚さが均等にならない。夏はトロロアオイの粘りが弱くなるために、紙漉きは冬の仕事といわれる。また、簀桁を揺する方向によって繊維の方向が決まる。

小国和紙は、溜め漉きに近い漉き方であり、漉いて直ぐに紙床に移すとうまくはがれない。そのため、紙床に移す前にある程度水を切っておく必要がある。

小国版のすき方

漉くときは漉き簀を2〜3枚用意する。
漉き上げたものを桁から外し、水切り用の板に乗せ水を切る。
その間次の紙を漉き、水切り板に乗せる。
最初に漉いた紙を紙床に移す。
紙床に移した後の簀を使い次の紙を漉く。
このように、簀をローテーションして使っていく。





かんぐれ

漉き上げた紙を重ねておく。重ねたものを紙床という。小国紙では、漉き上げたばかりの紙床を雪の中にそっと入れ保存する。小国では固まりを“ひとくれふたくれ”と数えるため、このことを「かんぐれ」という。雪国では冬など太陽の顔を見ることなどできず、外で板干しなどできないため、春の3月の中旬までこの状態を保つ。雪の中では、一定の低い温度のために腐ることなく保存でき、雪の重さで水が圧搾され、やわらかい湿紙をいためることがなかった。

紙干し

紙の乾燥は良く晴れた春先、3月の中旬頃に雪の中から掘り出され、適度に湿り気のある紙床から1枚1枚丁寧にはがし、紙板と呼ばれる板に、刷毛で傷つけないように張る。現在でも、このやり方をやる一方で、天候に左右されずに室内でゆっくり水を絞り、湿った紙を1枚1枚はいで温水で温めたステンレス板に張って乾燥させる。

裁断

出来上がった紙は注文の大きさにより裁断され出荷される。小国紙は保存用台帳や日常の帳面をはじめ、書道用、障子戸、ちょうちん、あんどんなどに使用された。今では混ざり物のない純楮の和紙ということで高級な紙としていろいろなものに利用されている。

*紙漉き語彙集

楮よせ    楮を集めること

玉きり    楮の原木を約三尺(1m)に切断すること

楮煮     切断した原木を平釜に立て桶を被せて煮る。

皮はぎ    煮た楮を熱いうちに皮をむく

皮引き    楮の表皮(黒皮)を取り除くこと

チリヨリ   白皮を水に浸してゴミを取り除く

雪ざらし   白皮を雪の上にさらすこと

紙煮     紙の原料にソーダ灰などを加えて煮ること

紙たたき   紙煮のあとの材料を板の上に載せてたたくこと

漉き舟    木製の水槽。この中に紙料とニレを入れ、混ぜ合わせる。

ニレ     ねり材、漉き舟の中に入れて紙の繊維を拡散させるのに使用する。

       普通トロロアオイの根を潰すとにじみ出る液を使う

紙漉き    漉き舟という容器に水を入れ、たたいた楮の繊維(紙料という)とニレを入れてよくかき混ぜる。簀桁で水の中の紙の繊維をすくいあげ、よくゆすってやると、水だけが下に落ち、簀に繊維が残って紙になる。

簀(す)   紙漉きに使用する道具。竹でできた竹簀と萱(かや)の穂先の細い部分を編んだホエズがある。

かんぐれ   何百枚も積み上げられた湿紙の塊。

かんぐれの雪中保存 厳寒の中で漉き上げられた湿紙は“かんぐれ”の状態で雪の中に埋めて、春まで保管しておく。この工程は小国和紙の抄紙の特色のひとつ 

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4.和紙の製品

日本酒のラベル

今回お邪魔したした片桐さんの工房では主に越州・久保田といった新潟の地酒のラベルの作成を仕事としてる。ラベルには、和紙の中に酒米の藁を入れているため、一層美味さをかもし出している。その他には葉書、便せん、名刺、絵画、書道、手芸、またはふすま、壁紙など注文に応じた和紙を漉いてくれる。

私の作成した和紙

工房の方の指導を受けて完成した一枚。しっとりとした風合いの和紙に仕上がった。表面の触った感じがとてもよい。何かに活用できないかと考えている最中であるが、一枚しかないので真剣に活用方法を考える必要がある。

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5.終わりに  和紙漉き体験と神楽坂建築塾について

 今回和紙漉きは初めての経験でした。

 自然素材として昔から使われている和紙の魅力を肌で感じたいなと思い、参加しました。工房を見学して、和紙になるまでには、たくさんの人々の手が加えられていることを知り、たくさんの工程を経て出来上がる和紙には、しなやかで力強いものを感じました。また、和紙の繊維と一緒に漉き船に入れられる“トロロアオイ”があんなにもとろとろ粘りのあるものだと、実際その液体に触ってみて驚きました。
 夜には小国町の人々との親睦会がありましたが、地元で採れた食材を使った料理(自家製豆腐・山菜の煮物など)を頂くことができました。小国町の人々のあたたかさに感動しました。
 そして今回の旅では、紙のこと、森のこと、木のことなど自然素材を再確認できた旅でもありました。今後、これらの自然素材を建築としてどのように活用できるか自分なりに考えていきたいと思います。
 今年一年、神楽坂建築塾の塾生として学んできましたが、毎月第二土曜の座学では民家の話、伝統工法の話、登録文化財の話、都市の話などいろいろな講師の先生方のお話を聞くことができ、そして、日曜のフィールドワークではいろいろな場所に出かけ、私の中で建築に対する、まちに対する視野が広がったように思います。
 同じ事を聞き、同じ物を見て一緒に学んできた塾生との語らいから気づかされたことも多かったです。

 今期、この神楽坂建築熟で学んだことが、今後の私の栄養素となり、もっともっと飛躍できるようになりたいと思います。

 

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