「なにも壊さなくてもいいのでは」―――
「人が集まれる広い和室」「暗い和室を趣味のアトリエに」という両親のニーズを聞いたときに、すぐにそう思いました。既存建物を取り壊して新築するのではなく、増改築で対応しよう、と提案すると、彼らも最初は「そんなことができるのだろうか」と不安になったようです。
町内ではもう珍しくなっていた平屋の小さな木造住宅。築35年の時間を刻んできた実家は、サイディング流行りの住宅街では逆に貴重なものに思えたのです。
まず床下・屋根裏に入り現況構造をチェックしました。豪華さや骨太さはない、ごく普通の家ながら、造作は丁寧で、軸部もまだ十分使えることが判明。既存部を改修し、更に庭に11坪ほどの総2階を増築しテラスで繋げるというプランを決定しました。
メインとなる和室を伸びやかな空間とするために2階に配置し、急勾配の屋根によってロフト空間を確保し、多人数での使用時にも快適な空間となるように自然素材を多用しています[増築部]。アトリエは天井を撤去して古い梁組を露出させ、更に面積を拡大。かつての暗かった和室をから大きく雰囲気を変えました[改修部]。
「のびのびと心地よい空間」というコンセプトとともに、遊び心を随所に入れてみました。壁に引き込まれる障子や、玄関の年号入り木彫銘板、船舶用丸窓、バーベキューができるウッドデッキなどです。
実家ということあり、私が大工さんの手元(助手)として施工に参加。更に父は塗装・壁張り・断熱材設置などに、母はデッキや天井板の塗装を受け持ち、文字通り家族ぐるみのセルフビルドを楽しみました。
完成し住みはじめると、畳、床、塗り壁……、家のどこを見ても、そこを作って下さった職人さんの顔を思い出します。家はたくさんの人がつくる大きな物語のようだ、と感じました。
そして家族が一番強く感じたのは、自ら手がけた住まいに暮らすということの豊かさです。母は今年の夏も一人でデッキを塗り替えていました。【渡邉義孝/鈴木喜一建築計画工房所員】
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