鈴木喜一建築計画工房
[増改築] File no.34

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尾内歯科医院改修工事

■所在地/群馬県太田市
■種別/診療棟=曳家改修(木造2階)、住居棟=新築(木造2階)
■設計/鈴木喜一建築計画工房
   (担当・鈴木喜一、渡邉義孝)
■施工/(有)齋和工務店
■2000年竣工
■外壁/珪藻土櫛引 内壁/珪藻土、クロス 床/コルク,杉無垢厚板
■掲載雑誌/『医院建築』22号(2002年7月発行)

▲photo.by アトリエR

[Consept]歴史を刻んだ建物を活かして

 群馬県太田市で戦後直後から続いてきた尾内歯科医院は、診療スペースの狭小化と設備の一新の必要、更に都市計画道路の拡張工事などの理由により「なんとかしなければならない」という状況にあった。
 既存の建物は、45年前(1954年)に住居併用として建てられた和洋折衷の重厚な建物であり、モダンな洗い出しの診療部(一階)と入母屋の屋根と瀟洒な銅板の庇からなる二階部分ともに、すでにまちのランドマークとなった味のある建物であった。取り壊しと新築も検討していた施主側に対して、私たちは「既存の建物を活かした改修プロジェクト」を提案することにした。

 時代が求める歯科医院建築とはいかなるものであるか。「最新技術の導入」「清潔と明るさ」「人にやさしい診療所」といった属性に加えて、ここでは「町の記憶としての歯科医院」というものを重視したかった。例えば記憶。子ども時代の歯医者はいつまでも覚えているものだ。更に、まちなみにとっての重要性。地方都市では特に深刻になっている、軽薄で単一的な景観へのくさび的役割を持たせられないか。地域の人々にとってそれは「安心感と信頼感」につながるに違いない。そして患者の安心感は医師のゆとりにつながるだろう。そのためには軽薄や表面的な豪華さを持つ素材や、初めはキレイでもすぐに劣化する新建材の使用は避けたい……そんなイメージがふくらんでいった。
 再生という手間のかかる困難な工事を引き受けられる工務店はそう多くはないが、ここでは近在の(有)齋和工務店が一貫して誠実にとりくんでくれたことが無事の竣工にこぎつけた大きな要因であった。
 まず詳細な実測調査・構造検討を行い、部分的な補強を施せば既存躯体はじゅうぶん再生可能であることがわかった。特に、「水害を防ぐために高くつくった床下」のおかげで土台部分の腐朽がほとんど見られなかったことも幸いした。工事はまず南側の住居棟の新築から着手し、診療棟については一部を解体して壁(小舞+左官壁)を取り除いた後、隣地境界から間隔をあけるためにジャッキアップを行い、約1メートル北東に曳き家した。診療室は既存部分と増築部分にまたがり、二階建て部分の前者は平天井・平屋にあたる後者はトップライトのある屋根勾配なりの板張り天井とした。
 和室がある二階はほぼ原形のままとし、壁の塗り替えと天井の撤去によってのびやかな空間とした。

 

 

[Photo]竣工写真 クリックすると大きな画像にリンクします 

上左/患者の視界に広がる診療棟南側の庭
上中/診療室内部
上右/2階の院長室。和室を改修。天井は撤去した。
左/南側庭
右/診療棟道路側(東側)正面

photo.by アトリエR

   

[Massage]医師からのひとこと

 今回の医院建築のきっかけとなったのは、私が実家の当院に戻って、院長である父と診療を共にするようになってから、それまでの医院が随分と手狭になってきたことからでした。
 新築するにあたって、引き続き診療を行いつつスムーズに移転するためには、旧医院の隣にある、両親が住む古い母屋部分に新医院を建てる必要がありました。そこで古い母屋を壊してサラ地にした後、新しい医院を建てるか、古い母屋をそのまま利用できるところは利用して、新しい医院として新・改築を施すかという選択を迫られた訳ですが、長年住み慣れた家をできれば新しい形で次代に残していきたいという家の者の思いと、家族のつてで紹介していただいた、古い建物を現代に合った形で再生するといった仕事を多く手掛けている鈴木喜一建築計画工房さんの見立てもあって、後者の形をとることになりました。
 内容的にはまず、外観は極力昔の面影を残すということで、瓦屋根に珪藻土の塗り壁、銅板の雨どい、といった懐かしい面影を感じさせる中に水平的なパラペット部分のシャープさが上手く調和して、古い中にも新しさを感じさせる良い仕上がりになっていると思います。
 建物内部に目を移すと、一階の診療スペースは古い骨組を利用した部分と、新しく増築した部分とで構成されており、木目を多く見せた明るい感じが印象的です。増築の部分に設けた梁などはとてもよいアクセントになっており、患者さんに好評のようです。古い骨組による制限で、多少作業スペースに余裕のない部分もありますが、今のところ大きな支障はありません。
 二階の医局・院長室は古い骨組をそのまま使っていることもあって、診療室とはまた違った、重厚で落ち着きのある空間となっています。昔から住んでいた者にとっては非常に愛着を感じる部分です。
 こうして新しく生命を吹き込まれた建物をまた、次代につなぐように大切に使っていきたいと思います。

副院長 尾内正芳


▲コンセプト図(293KB)

[Photo]工程写真より

▲改修前道路側外観

▲全体計画模型。右が診療棟、左が住居棟

▲診療棟を部分解体して曳家する。

▲ジャッキアップして家が宙に浮いている。この後、約1m東に移動した。


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