鈴木喜一建築計画工房
[新築] File no.35

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内と外がつながった家

■所在地/東京都
■種別/新築・木造2階
■設計/鈴木喜一建築計画工房
   (担当・鈴木喜一、渡邉義孝)
■施工/千葉工務店
■2001年竣工
■外壁/杉板,プラスター 内壁/珪藻土 床/樺無垢板,杉無垢厚板
■掲載雑誌/月刊『住宅建築』2002年8月号

▲photo.by アトリエR

[Consept]家もまたともに成長していく

 施主家族が神楽坂のアトリエを訪ねて来たのは1999年11月のことだった。奥さんが神楽坂建築塾の講義録生であることから、初対面だったがなごやかな会談になった。
 彼らのコンセプトはまず、「土地とつながった家」、「時の経過とともに味がでてくる素直な家」ということであり、次に「便利な快適さより、自由な空気が流れる心地よさを」、しかも「すっきりした明るいデザインの家に」という要望だった。5歳の子供がいたこともあり、出来るだけ自然素材で建てたいということ、薪ストーブのある生活を楽しみたいという希望も持っていた。
 何度かアトリエで打ち合わせを重ねるうちに、内部と外部を柔らかくつなげようというプランがごく自然につくられていった。
 一階の土間空間や大広間(台所・食堂・居間・予備室)は外部と密接につながり、二階の浴室や寝室も、庭に面した平面計画ができあがった。内にいても外とつながっている感覚、明るい空気の流れをいつも実感できるような家にしようということになった。
 とりわけ二階中央につくった浴室は施主のユニークなアイデアでもあった。ガラスの大窓を持つ浴室は、眺めがよく風が実にさわやかに通り抜ける。このくつろぎの空間は、リボールマイティの強力な防水技術によって実現することになった。また、施主は素材の一つ一つの選定に積極的にかかわり、北海道産の床材やローコストの珪藻土を提供してくれた。そのいずれもが納得のいくクオリティを持ち、この家の心地よさを支えている。
 家族が年を重ねるように、家もまたともに成長していく。当初はなかったデッキやパーゴラ、砂場も加わり、竣工後一年のうちに、この家は住む人の手によってどんどん表情が豊かになってきた。これからさらにどのように変化していくのかほんとうに楽しみだ。

 

 

[Photo]竣工写真 クリックすると大きな画像にリンクします 

上左/前面道路からの南側外観。2階中央部がサンルーム。玄関の格子戸のデザインは施主のイメージによるもの。
上右/南東側外観

左/庭からの南側外観。外構工事には施主も参加した。外部用流しは古い学校にあったもの。
右/玄関・土間から台所を望む。土間はファジーな多機能空間になっている。

 

上左/居間より予備室を望む。建具を引き込むことで庭との一体感を増している。正面(西側壁面)の大きな木製建具は回転窓。左側上部にメガネ石が見える。
上右/2階浴室からサンルームを望む。お風呂は家の中で一番明るいスペースとなった。

左/ウッドデッキからの眺め。居間と土間が外部とつながっている。


下左/居間・台所。予備室とは引戸で仕切ることができる。台所の窓もオーダーの木製建具とした。
下右/ロフトB。左側の吹抜けはサンルーム上部。西側妻面には開閉式丸窓を、屋根にはトップライトを設けて換気効率を高めている。

photo.by アトリエR

 

[Detail]設計上の留意点

◎浴室……風通しと採光・眺望を優先したため2階中央に配置した。防水の方法はいくつかの工法を検討したが、電車の屋根防水に使われているリボールマイティを採用し、床および立上がり部に強固な塗膜を形成した。荷重を支えるため根太は90×90の部材とし、梁に大入れの形で北向きの水勾配を確保している。防水性のみを考慮すればユニットバスという可能性もあるが、本物の素材感を大切にするという施主の希望から、当初より選択肢から外された。木製建具や水に触れる木部には、耐水性の高いヒバやサイプレスを使用している。

◎ロフト……吹抜と一体化させて圧迫感をなくし、トップライトを設けることで一階からロフトまでの煙突効果による自然換気も期待している。

◎2階……浴室の南側ガラス戸〜サンルームの全面ガラス戸ともに透明にして、明るい浴室空間を確保する。開口部は引戸とし、常時開放させることで湿気を留まらせないようにする。

◎1階……広間〜土間〜外部との境界をファジー(あいまい)にするため、仕切り壁を排して段差を小さくした。また庭や室内空間との親和性を考慮して正面の開口部は木製建具とし、戸袋に引き込むことにより庭とひとつながりにすることができる。ウッドデッキやパーゴラを設けて半屋外空間として連続させる。閉鎖的にならず、しかし適度に視線を遮るように、目透し板張りの塀をつくった。風を通すことで、一年を通じてエアコンなしで暮らせるようにしたいと考えている。


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