これまで武蔵野美術大学吉祥寺校四号館の現状、及び腐朽、破損状況について細かく言及してきたが、本報告はその結果、この建物が今日という時代の機能に沿うことができなくなったということを提言するものではない。
確かに本文の冒頭にも紹介したように、この建物は昭和30年に建てられたもので、現存する武蔵野美術大学の校舎の中では最も古い遺構である。しかも一般的に、必ずしも材料や経済が豊かであったとはいえない時代の建物である。
しかし、無名で古い建物が、即ち遺棄すべき建物で老朽化した建物という図式では語ることができない。これまで当工房では近世から近代まで多くの民家の保存、修理、改修に立ちあってきたが、その経験と今回の実測状況を踏まえた上でこの四号館を見れば、まだまだ建築として壮年期を生きていると言えるだろう。しかも、限られた木材の有効利用を構法的に解決しようとした当時の関係者の創意を伝える貴重な建物ということもできる。
高度成長期以来、時代は急速な勢いで年輪を重ねている建物たちを廃物化してきたが、ここ数年、長く持続可能な建築の在り様を追及する気運が高まってきた。それは専門家だけでなく、市民、行政の間でも生まれつつある。
こうした潮流の中で、四号館の保存とそのゆるやかな更新、かつ活用という命題はまさに新しい時代が希求している最も大切なテーマだと思われる。
最後に、活用にあたっての提案を簡潔に述べておくことにする。
★吉祥寺キャンパスの全体的な環境整備構想とそれに基づく四号館の位置づけを考えたい。そのことによって、四号館までのアプローチが再構築できるであろう。
★戦後という時代のモダニズムを注意深く読み取ったデザインとするべきである。
★北面に正面ファサードをつくろう。東面も裏の道路から容易に望見できるので重要なファサードである。
★改修工事においては法規制や近隣状況についての配慮が必要である。
★屋根裏に洋小屋が大がかりに残っているので、この空間を積極的に活用するべきだろう。
★改修にあたっては、使用用途の検討と同時に設備の更新が必要になるだろう。便所や湯沸室の増設、空調設備等の新設が考えられる。また、基礎部及び木構造下部の点検、それに基づく構造補強は必要条件である。
★さらに、残す部分とつくる部分を明確にしながらも各要所で多様な判断がとられるべきであろう。保存か撤去かという二極化した構図は避けてできるだけ柔軟な馴染ませ方を追及すべきである。
★たとえ積極的に活用するということがなくても、最低限の修理はする時期である。
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