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この家が竣工して約二年が経過した。植物がたくましく成長するように、敷地内のあちこちにはアトリエ棟や茶室が出現している。設計者としてここまでの増殖力は読み取ることができなかった。場所と一体になっている榎さんの生命力が縦横無尽に溢れている。
「鈴木さん、器用でないと住めないねえ。というのはさ、電気とか水道とかいろいろトラブルがあるのよ。田舎暮らしと言っても憧れだけではだめだね。結構ハードだよ。草刈りしたり野菜つくったり、まあこっちは片手間でやってるから、まだいい野菜が収穫できないけど、近所の人がおいしいのをくれるわけ。この家つくって良かったよ。山仲間や友人がよく訪ねてきてさ、ベランダはほんとにぜいたく。もうすぐ蛍の季節だなあ。仕事も遊びも一緒だから時間がいくらあっても足りないよ。そうそうアユミギャラリーの庭にあった欅游庵は夏場の昼寝には最高ーーーーー」
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榎さんの話を聞いてふと我にかえって考えてみる。彼がつくろうとしている場はひょっとしたら新しい緑農住構想つまり21世紀型新田園都市構想にもつながる予感を秘めているのではないかと……。都市の一極集中を排して、人間の生活圏を分散していく兆しともいえるのかもしれない。(すずきいち・建築家)
▲暖炉のある居間
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▲ワインセラー
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▲玄関ホールから居間を覗く
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▲寝室
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▲浴室
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▲和室
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▲ウッドデッキへ寝室の明かりがもれる
▲居間・食堂。建具はすべて引込むことで、心地よい風を取り込む
▲ロフト。左側はFIXガラス。東側妻面には開閉式丸窓を、屋根にはトップライトを設けて換気効率を高めている。暖炉の煙突が通ることで、暖房効果がうまれた
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