2003年8月、市川市菅野に住むISさんから丁重なお手紙をいただいた。
「築60年の家に暮していて、数年前から改修を考えている。先祖から預かっている家屋の柱や梁等の主要構造部を忠実に残して……」という内容だった。
さっそく、建物を見学し、実地考察を重ねたのだが、戦前の市川市における歴史的な価値のある住宅だった。国登録文化財に推薦したい建物であり、市川市教育委員会にもその旨、相談をしている次第である。
IS家は現在、ご夫婦、お母さんの3人暮しである。
当該建物は昭和15年、ISさんの祖父が富津の某大工棟梁に依頼して丁寧に建てたものということである。
当主ISさんから改修工事について貴重な話を聞いた。生まれ育った家を壊して新築するというのではなく、古きを活かして、できるだけそのままに温存したいということだった。歴史的建造物の修理及び保存を専門としている私としてはうれしいことだった。保存行為は、建主のある種のロマンチシズムを根底とした精神によって支えられるものだと思うからである。その結果、以下のことが付随して言えると思えた。
・古い建物はそこに歴史の厚みを読みとれる。
・保存とはより質の高い環境をつくりだす一つの方法。
・古い建物はその家の記憶と一体であり、未来と過去をともに夢想できる。
改修工事(修理・再生)は単なる保存や修復とは異なり、古い建物を現代に生かし新しい価値を生み出し過去を未来に繋げる行為である。既存の建物の魅力を十分に引き出し、傷んでいる部分を補強したり、腐朽している部分を取替える。こうして築60年を経た建物にさらなる新しい命を吹き込むことが、いまとても大切な行為だと私は常々考えている。
IS家は創建以来、すでに何度かの改造が行われていて、いくつかの時代の層が重なり合っている。今回の改修工事では、修理という行為により、そこに新たな時間軸を加えることになるのだが、そのことによって、より生き生きとした豊かな空間になることを願っている。
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