僕のとなりの国にいるちがう顔の人たち


VOL.09

旅からの手紙


上海・中国  Sketch by Kiichi Suzuki

洛陽・中国

 


1987年1月4日、曇り。洛陽という古都を震えながら歩いています。スケッチブックを持ってきたのに、スケッチどころかメモもとる気になれない寒さです。陽が昇るのは遅く、陽が暮れるのは早い。夕方5時頃にはかなり暗くなってしまうのでちょつと心細い気になります。せめて天候が良くて汗でもじわっと出る季節ならいいのにとも思ったりします。寒いのは苦手です。でも日中、太陽の出ている間はやや温かになって凍った道も少しだけ溶けてショロショロと水になります。旧市街の家並みは低くてとても親しみやすく気にいって写真だけはずいぶん撮っています。
洛陽の人々は、この寒さの中で黙々と働いています。道端にはいろんな商いが出ています。肉屋、釘屋、金物屋、ハンダ付け、豆屋、焼芋屋(大きな焼芋が1.5角、つまり約6〜7円ということか)、布屋、裁縫屋、帽子屋、野菜や果物………ありとあらゆる店が外に出ています。
バザールの街路は、いろんな人間の表情やその生活が表出していてすごく力強い。この寒さはかなり体に応えるけれど、いろんな人たちの日常風景を漠然とでも見て歩くことは必要な気がします。彼らが、この洛陽でこの冬を生きている、そのことを感じることは大切なことだろう。この地球上にはもっと厳しい冬の自然の中で生きている人たちもたくさんいるだろう。
夕方は駅前の大衆食堂でワンタンとセイロウで蒸した温かいシューマイを10個食べた。両方ともすごくおいしかった。約45円といったところ。陽が暮れて寒さが厳しくなってきたので、しかも夜道も暗いので、タクシーに乗って宿の洛陽賓館に戻りました。部屋で河南省産の月山 酒(ビール)を飲んで、このメモを取りながら、いつしか深い眠りに………。

旅に出て気が向くと親しい友人たちに日記のような手紙を書いて送っている。旅のさなかの手紙は自分宛に書いているようなところもあるのだが、この冬の中国日記の中にあった走り書きは誰にあてて書いたものか思い出せない。下書きをしてから手紙を書くタイプではないので、これは文字通り自分宛に書いた手紙でたぶん出していない、ということにしておこう。

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