僕のとなりの国にいるちがう顔の人たち


VOL.13

ゼイナルさん一家

トルコ・イスタンブール  Sketch by Kiichi Suzuki

トルコ・デニズリ

 


トルコの小さな町デニズリではすっかりゼイナルさん一家にお世話になってしまった。ゼイナルさんは高校の歴史の教師、奥さんは白い服がとてもよく似合う美人だ。
町を散歩している途中、歯磨き粉を買いにふらっと雑貨屋に入った。その店先にはおじいさんがいて、日本人のぼくを見ると、びっくりした表情をしていたが、徐々に親しげな笑顔を浮かべ、よく来たな、と力強い握手を求めてきた。そして、奥の部屋から慌てて息子のゼイナルさんを呼んできた。しかし、彼には英語がほとんど伝わらない。歯磨粉が欲しいという単純な話がどんなことをしても伝わらない。
わけがわからないままゼイナルさんにタクシーに乗せられて、新興の住宅団地まで連れていかれた。三階に彼の友人で英語の教師が住んでいた。そこでゼイナルさんは、ぼくが歯磨粉を買いに店に入ったこと、長い旅の途中であること、今晩アンカラ行のバスに乗ることなどをすっかり理解したのだった。
「バスの出発まで、まだ時間がたっぷりあるから我家に来ないか?」
ぼくの全貌をつかんでほっとしたゼイナルさんは、身振り手振りで丁寧に話しかけてくれる。ゼイナル家ではちょうど夕食の準備で賑わっていた。おじいさんは、ぼくを見てまたまた大歓迎、肩を叩いて喜んだ。
楽しい食事となった。両親、ゼイナル夫妻、親戚の婦人、近所の友人たちでテーブルを囲む。肉と豆を練って油で揚げたもの、野菜サラダ、ナスのヨーグルトあえなどであった。食事が終わるとみんなで両手をあわせてアラーの神に今日の一日を感謝した。最後に塩を少し口に含んで清め、水を飲んだ。
ゼイナル夫妻は別棟の自分たちの住まいにぼくを案内してくれた。きちんと片付けられたきれいな部屋だった。そこで一緒にラクという強い白濁酒を飲みながら時間を忘れていった。
夜も深まり、ぼくはイスタンブールの水辺で描いたスケッチをゼイナル家にプレゼントして、みんなと握手して、おじいさんとは抱き合って、ゼイナル家をあとにする。バス停まで見送ってくれたゼイナルさんとも抱き合って別れを惜しみ、アンカラ行のナイトバスに飛び乗った。

目次に戻る 次のページヘ