僕のとなりの国にいるちがう顔の人たち


VOL.21

楕円の家

インドネシア・ニアス島/グヌンシトリ  Sketch by Kiichi Suzuki

インドネシア・ニアス島/グヌンシトリ


1993年7月、スマトラ島の西約125キロ、インド洋に浮かぶミステリー・アイランド、ニアス島に行ってきた。
気楽なスケッチツアーなのだが、あえて目的はと問われれば、ヴァナキュラーな建築とその生活風景を見るためと答えることにしている。ヴァナキュラーとは、英語でVERNACULAR、風土的な、地方特有の、という意味である。略して、ヴァナキーと勝手に呼んでいる。
往路は北スマトラの西岸、シボルガという渋い港町から貨物船のようなナイト・フェリーでニアス南部のテルクダラムに入った。蒸し暑い夜だった。
上陸後はヴァナキーな村落を訪ねて、熱帯雨林の悪路をジープでひた走り、島の中心地グヌンシトリの町に抜けていった。これで結構疲れたメンバーたちは、再度の船で帰る気力もなく、復路はなんと8人乗りプロペラ双発機をチャーターして、スマトラの州都メダンに飛んだのだった。チャーター代は500万ルピー(約25万円)、奮発してしまった。
さて、ヴァナキュラー建築の話。ニアス南部には、ノアの箱舟のような天空船団集落がいくつかある。中でもびっくりしたのは、バウォマタルォという山頂集落で、造成した高台に巨石を敷き詰め、T字型に広場のような街路を配して、そこにずらりと方形船型住居が並んでいて圧巻なのである。高床杭上家屋でココヤシの屋根は天を突くように高い。
グヌンシトリ郊外にある楕円の家には、さらに感心してしまった。ゆるやかな楕円形樽型の家で、中に入っていると本当に落ち着いてしまう。壁面の板が約10度位外に向かって傾いているのが効いているのかもしれない。それにジャングルの自然木を手斧で切り出した柱がうっとりするくらいみずみずしい。この家もやはり高床杭上でココヤシの屋根も天を突いて高いので、箱舟に乗っている気分なのである。UFOに乗っている気分と言ってもいいかもしれない。

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