僕のとなりの国にいるちがう顔の人たち


VOL.26

ヒマラヤドライブ

シガツエ・西蔵  Sketch by Kiichi Suzuki

シガツエ・西蔵

 


高山病も癒えて、シガツエからカトマンズをめざし、ミニトラックでヒマラヤをドライブ、といっても真冬のチベット高原の寒さはかなりハードに冷え込む。マイナス15度位だろう、と同乗のタヌキが言っている。タヌキとは、シガツエのテンジンホテルの主人のことで、とぼけていてちょっと悪賢く、いつもマネー、マネーと繰り返している。このミニトラックは、タヌキのオーガナイズによるもので、ぼくが彼に支払った金額は確か言い値の400元だった。チベットの経済状況を考えれば相当高い金額であったが、ネパールの谷に抜ける月2便のローカルバスは出発したばかりだった。
早朝6時、シガツエを出発、湯たんぽを抱えての旅である。靴底から伝わってくる寒気に足先が冷たい。トラックの前面ガラスも凍っている。行き交う車は全くないのだが、こんな闇の中をロバを連れて歩く人たちがいる。
8時30分、ようやくヒマラヤの空が青くなってきた。9時30分、ようやく光が射してきた。荒れた岩山は茶褐色。
10時過ぎ、ラッツェ(LHAZE)という小さな村で給油、ストーブにあたりながら朝食兼昼食、おかゆと饅頭という質素なものである。
トラックはチベット高原をひたすら走る。岩山の色は茶褐色から橙色、そしてピンク色を帯びてきた。ファンタジーな世界だ。この山々は火成岩で出来ているのだろうか、細かな板状の節理が岩肌を緻密につくりあげていて、ここが一億年前の大昔《テーティス海》という海の底だったという話を思いだしてしまう。
15時過ぎ、テングリ着。テングリからはヒマラヤが一望できる。そのパノラマの左端に世界最高峰チョモランマ(8848m)も顔を出している。
16時30分、茶館で休憩、茶館というより、実は大工さんの作業小屋であるが、そこでタヌキの持参したパンをかじり、生乾きの羊肉をナイフで削って食べて見る。これはいわば生ハムで、美味、レモンをギュッと絞って食べたかった。 再びヒマラヤの雄大な景色を眺め続けて、ヒマラヤの空は暮れた。一路、国境の町ダムへ。
21時15分、約15時間のヒマラヤドライブを終えてダム到着。暗がりの中、タヌキに放り出されたぼくは、親切なネパーリーたちに案内されて、名も知らぬロッジのドミトリーに投宿。国境の町はチベット語でダムと言い、中国語では樟木(ジャンムー)、ネパール語ではカサと言われていた。

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