僕のとなりの国にいるちがう顔の人たち


VOL.27

ツアー崩し

江南水郷・中国  Sketch by Kiichi Suzuki

江南水郷・中国

 


旅というのは、勇気をもってスケジュールを壊してしまうことも大切だ。ひょっとしたら人生もそうかもしれない。
というふうに、ぼくは大分以前の稿で書いているのだが、´94春の江南水郷スケッチツアーはまさにその連続だった。総勢6人というスケールがちょうど動きやすかったのかもしれないし、勝手知ったる江蘇省、浙江省といった土地柄だったということもあるだろう。
このスケッチツアーは杭州遊学中のぼくを訪ねる旅として、日本通運八重洲旅行支店で突然に企画され、添乗員の同行はなかったものの、現地では杭州旅 公司のガイドたちが熱心に世話をしてくれて、三食観光付、つまり、どうにもがんじがらめのスケジュールだった。宿泊ホテルはと言えば、上海は和平飯店、それにブロードウェイマンション。蘇州は竹輝飯店、杭州は杭州シャングリラ、紹興は紹興飯店という一流のホテルである。快適で豪華なのはいいが、安宿派のぼくにはちょっと贅沢過ぎてもの足りない、というか落ち着かない。簡素で頑丈、それに生活感と漂白感も欲しいのである。(……これが本当の贅沢かもしれませんね)
そこで当然のことながらスケジュール崩しというか、ツアー崩しが今回のスケッチツアーの重大なテーマになってきた。主体的にツアーを崩さない限り、ぼくたちには活路がないというわけである。S作戦(Special Seacret Story)と称して6人でツアー崩しが始まった。どんなふうに崩していったのか少し紹介すると、
・ガイドも知らないような郊外の屋台へ発作的に行ってみる。(これが安いしうまい)
・チャーターした船の行き先を突然に変えてしまう。(たどりついた周荘古鎮はいい町だった)
・決まっているホテルをほったらかして古い町の旅社に泊まろうとする。
・旅行社のバスに置き手紙、雨上がりの町をリキシャーでこっそり逃げ出す。
・ローカル火車になんなく乗り込み、スケッチしながら中国人民を巻き込む。
・ガイドと約束した集合時間を守ったことはあっただろうか。
・メンバーの相次ぐ入院騒ぎをいいことに、帰国便のANAをキャンセル、旅行期間をちゃっかり延長して独自の旅に突入、みんなバラバラの帰国。
実は、まだまだ公表を差し控えなければならないきわどいツアー崩しが山ほどあった。……ともかく、リンムーグループ(鈴木集団)が旅を終えて、中国江南は今、大分静かになっているはずである。

目次に戻る 次のページヘ