アユミギャラリー・グローバルシアター初公演

馬宿夢幻・第一幕

     
●ロマンチシズム/【理想に生きる】/1.限りなく椎木透子に近い夢の女/2.限りなく広野リツに近い夢の女/未来に現れるもの、もしくは現れるべきものに対して憧憬をつなぐ/命あるものに対峙する魂/馬と人との緊密な関係
●夢一夜・夏/詩的に、誠実に生きる、マジカルに、SACRIFICE、尊厳をもって、
【夢の女】
(夢の女、ふーっと現れる) ……その土地の風土の中には、『今この時に存在している人達』だけでなく、『かつて存在していた人々』や『天の恵みを受けて、命を持った人達』の想いが空気中に溶けて、たゆたっています。
その土地の記憶は、風となって頬を撫で、誰かの心にとどいたその瞬間に、その風景や場所にある“懐しさ”を授けてくれるのです。
風土にしみ込んだ“気配”の匂いです。
【記憶の部屋】
(コンコンコン……、とノックの音)
……私の友達を紹介します。とても優しい瞳の持ち主で、名を“ナナモリ号”といいます。
先日彼女にとても楽しくて素敵な話を聴きました。私は、その中に存在する人、モノ達に心を惹かれました。
そしてここ、『記憶の部屋』へと来たのです。ここにある、無限に連なる扉の向こうには、様々な記憶タチが今もなお、拡がり続けています。
今から私もそのナナモリ号の知るところへ、行ってみたいと思います。
では……、
(夢の女、扉をあける。風の音、川の音、会津の自然の音が流れ、ナナモリ号のいななく声、走りゆくひづめの音)

ナナモリ号?
(夢の女は扉の向こうにつながる世界へと追っていく)

【暗転】
【馬に語りかける娘】
(星のきれいな夏の夜の、風吹く少し小高い丘の上。そこでは一本の木が、風にそよいでいる。花とベルを手に、そっとやってくる娘。 虫の声、蝉の声、優しく響いて…)
(花をあげて)
どうだ、今年もきれいに咲いたろう。 一番好きな花だ。おめぇのこの木も、白い花さつけたよ、可愛かった。あとは、おいしい実つけてくんつぇ。林檎の実は、おめぇの心。ごろんとな、暖かくって、ひと口かじっときこえてくんだ。生命の声みたいなもんだ。おら、生まれてきてよかったなんて思ったりすんだ。
おらな、こないだ素敵なとこ、みつけたど。道場のずーっとイリの七ケ岳に草刈りにいって偶然にな。そこら一面、自然の花畑だ。山はすごいな、いろとりどりの花さ、たっくさん咲かせる。つらいことあっと、そこさいくんだ。花はなんにも言わねぇけんじょも、あったかいなぁ。おら、なんか元気になる。…みせてぇなあ。
あ、これ、懐かしいだろ、持って来た。いっつもしてたのにないってのもおちつかんべぇと思ってな。
(と、ひざもとに置いていたベルを手にし、チリンと鳴らす)
    いい音だ。
(ベルを置いて手をあわせ目を閉じる娘)
今日な、東京から、本が届いたぞ。馬の話の勉強の本だど。おらのムコさまになる人が、送ってよこしてくっちゃ。おらのムコさま、頭のいい人でな。今、東京の学校さ行って、お医者さまになる勉強してんだぞ。おらのおとっつぁと同じく獣医様になんだと。おらも頑張って勉強さして、ムコさまと一緒におとっつぁのような仕事やっちぇ。
おとっつぁは、馬、治しても銭はとんねえだ。
「病気したってみんな銭なんのねえんだからな、仕方あんめえ」って。
おとっつぁは言ってた。『医は仁なり……』、金は残さねえっていいから、先祖の名は汚さねえようにしてけろだと。
こないだもよ、夜中になって「助けてくれ」ってくっから、おとっつぁ、「いつから悪い」って聞いてんだ。
おら「今、悪くなった」ってゆえばいいのによぉって思ってた。ほじゃぎんじょ、もう間にゃなかった。
「晩方から悪りのに、今まで来ねえでいたのか、にしゃ、頼まねえですむと思ってたのか、じきに来れば早く治んだぞ」ってどなったぁ。馬のことは人一倍大事にしてっかんな。
言ってたぞ。
「あの野郎はずるい野郎だぎんじょも、馬はおれが行がねっか治んねから、行かんなんねえ。おれでねえば、しょうねえだから」ってな。
おら、気短かで、厳しいんだぎんじょも、正直なおとっつぁが好きだ。
(ナナモリ号うなづくように鳴く)
おとっつぁがな、言ってた。「畜生はしゃべんねえ。ほんじゃから、向きあう時には損得抜のねえ、正直で嘘のねえ、気持でねえどだめだ」って。真っ直ぐな気持ちで向きあえば、感じあうことができんだって。
そだなあ、……言葉使ってしゃべってんのは、人間だけだもんなぁ。そだもんなくったって、おとっつぁが、馬や動物たちとうまくやってんのみっと、言葉なんちゅうより大事なもんがあるってなぁ……、思うよ。 瞳(め)みっと分かるってこともあるしな。
人とだって同じよなぁ。人だって、馬だって、そうだ、花だって、木だってな。あったかくなってくっと、蕾もつだ。木だって生きてんだよな。その蕾とっから、いい空気出してくれてんだと。
こっちに“想い”があればよ、綺麗に咲いてよ、花だって、こたえてくれんだもんな。“命あるもの”だもなぁ。……おんなじだなぁ。
ナナモリ号、おら、損得のねえ、正直な気持ちでっちゅうとこが、なぁーんか好きだなぁ。そのこと思うと、ここらへんさ(胸のあたり)くーっとくる。
馬たちとおとっつぁ、ほんでまた、おとっつぁとおがぁ、みでっと、なんだか同じようにここらへんさ、くーっとくる。
おとっつぁが、あぁしていられんのも、おがぁがあぁしているから、なんだよなぁ。
おとっつぁが、馬達やらを守りに行く。そんじぇ、そのおとっつぁを守って、こめらを守って、家を守るおがぁがいる。
おとっつぁは、忙しくってひとっつも家さいねえげんじょも、そうだぎんじょも、おとっつぁとおがぁはとっても近いって思うんだ。
おらも、ムコ様とそんなふうになりてえなぁ。そんじぇ、また、おらも、おがぁになって、こめらに教えてくっちぇなぁ。大事なことをな。言葉でねぇぐ、一緒に生きていくながでなぁ。
(語りかける娘、夜空を見上げる)
……ナナモリ号、今夜も星が綺麗だなぁ。
この村でめえる星は人の心さ映すって言い伝え、聞いたぞ。もちろん、昔話だけんじょもな。おら、なぁーんだか、ほんとの話みでぇに思えでなんね。意地悪りごどすっと、お月さまもおごっぞ。やさしー気持ちでいっと、お星さんもやさしくしてけんだど。
この村の星は今夜も綺麗だなぁ。
(娘、ずっと夜空を見上げている。馬のやさしい蹄の音……、徐々にフェイドアウト)
【暗転】

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