VOL.1
NEPAL photo and sketch by Kiichi Suzuki
NEPAL
《マガルコチョリ(マガル人の娘たち)》
《アンナプルナ》
《雨やどり》
《ロッジの石屋根に座って》 |
シャングリラへの旅、というのを始めてしまった。というか、すでにだいぶ前から始めていたような気もするのだが……。機内の窓からは、白い雲海のはるか彼方、東ヒマラヤの夕暮れが、わずかに見え隠れする。まるでファンタジーの世界だ。香港からカトマンズへ2940キロ、高い空を飛んでいる。 シャングリラというのは、地上の牧歌的楽園のこと、中国の故事に例えれば、桃源郷ということになるだろう。ロイヤル・ネパール・エアラインのマガジンのタイトルは、なっ、なんと、このシャングリラなのだ。そのマガジンの中にある《ネパールの目》を小さなスケッチブックに描いて遊んでいたら、すっかりスチュアデスに気にいられてしまった。彼女にちょっとシャングリラのことを聞いてみよう。ヒンドゥー系ネパーリーの、超美人! しかも、明るくてチャメッ気がある。名前はアチャナ(ARCHANA)、 その彼女がにっこり笑って語ってくれる。 「それはね、チベットの奥地にある秘密の砦、地上のユートピアよ。」 さらに深呼吸一回分の間をとって、 「……アガルタ、という別天地も地球の内部にあってね、それもこのあたりが入口なの。架空の場所といわれているの、でも私は信じてるわ。……魂の離れ島みたいなものかな。」と少し得意気だ。 「あとでヒマになったら私を描いてくれる。」と見つめられたので、 「うん、もちろん描いてあげよう。」 描いたスケッチ(似顔絵)は、その場であげてしまったので、ここで紹介することができないが、公表するのはもったいない気もするので、ちょうどよかったのかもしれない。 シャングリラ、桃源郷、ユートピア……ちょっと首をひねってしまう。でも考えてみれば、何もとりたててぜいたくな場所ではないよな、とぼくは気楽にイメージしてみる。虚飾を捨てた仙境ということであれば、 ・素足で気持ちがいいとか ・心が自由でなごやかで楽しいとか ・人の表情や目に輝きがあるとか ・田畑と素朴な家屋があって ・川の流れや池があって ・植物と動物も一緒で ・月を眺め、ゆったりと風に吹かれて生活し ・矛盾も性急な進歩もない というところかな。オカルティックなアガルタはともかく、人間が喜びをもって至福の中で輝いている地上の楽園は、架空の場所なんかではなく、ずいぶんあるのではないか、と単純にぼくは確信する。でなければ、シャングリラへの旅というシリーズも始めようがない。 シャングリラという夢のような現実、そして厳しい俗な現実、しばらく行ったり来たり、グルグル循環しながら、遠いところ身近なところ、グローバルな視点であてどなくさまようつもりである。 だいぶ昔になるが、学生時代、『シャングリラ号』という気球を仲間たちが飛ばしたことがある。少しだけ飛んだが、なぜかあまり飛ばなかった。今度のシャングリラは、軽やかな清風にのって大空高く飛んでみたい。 |