VOL.21
北海道  photo and sketch by Kiichi Suzuki

北海道



▲ヘルヴェチア・ヒユッテ 『海を秋が横切れば……』

斜里の海で、
見知らぬ少年と話をした。
北海道春夏秋冬。

春はかるくたたずんでいる。
春になるとうれしいとはよく聞きますが、
4月はきらいだ。
雪が溶けて道路はグチャグチャ、 まわりが活気づいて、みんな浮かれているけれど、
でもぼくはさびしくなります。

夏の草はふみつけても大丈夫です。
夏は最高の季節といいますが、
しかしぼくは夏向きではありません。
あまり暑いと溶けてしまいそうなので、
半袖の服もあまりもっていないし……、
夏にほしいのは風、海から生まれた碧い風です。

海を秋が横切れば、
このオホーツクはすべてを飲み込んだ無限の色。
ぼくは10月が一番好きです。
THE OCTOBER COUNTRY、北海道は秋の国。
木々の葉もさまざまな彩りを見せて、
空は高く、ナナカマドの赤い実もきれいです。

冬のよく晴れた、キーンとする青い空、
そして透き通った朝の空気が好きです。
しばらくして窓を見ると、あたりは凍りついて、
しんしんとわたのような雪が、
グレーの空から落ちてきます。
ナナカマドの赤い実も雪をかぶります。


▲斜里の海は夕暮れとともに

●『ヘルヴェチア・ヒュッテ』
 定山渓の白樺林の中にひっそりとヘルヴェチア・ヒュッテは立っていた。
入口の扉がわずかに開いている。ぼくは思わずほほ笑んで右手を握りしめる。中に入ると北大山岳部の学生たちがなごやかにストーブを囲んでいた。こういう気分のものはいったいどこへ行ってしまったのだろうかという内部空間の豊かさ。
 学生たちがコーヒーをいれてくれた。窓を見れば秋の色と風が美しく映っている。ランプの灯が揺らいでいる。薪の匂いもする。ぼくはベッドの下段に体を横たえて、川のせせらぎをしばし聴いている。ヒュッテの胎内に抱かれて、いつしか美しい夢の中へ……。

●『北海道庁旧本庁舎』
 鳥が鳴いている。肌寒き秋の空がうごいている。池には小さな魚たちがいる。

●斜里の海は夕暮れとともに  1995.10/10
*16:03  *16:41  *16:46  *16:52  *16:55

●オホーツク海は白いカモメのシャングリラ。金属性の声でワーイワーイと黄色い声をあげている。みんなでいったい何を話しているのかな。耳を澄ませて聞いてみよう。
カモメ1:「こっちの魚がおいしいぞ」
カモメ2:「ちょっと、そんなに釣ったら困るわ」(今日は釣り人がチカを大量に釣り過ぎている気配)
カモメ3:「残さず食べてほしいものだね。私たちのように」(カモメの魚の食べ方は芸術的でした)
カモメ4:「人間の世界じゃ、フライや天ぷらにしたりするそうだ」(チカは少し生臭いらしい)
カモメ5:「火が使えていいわね。私たちはつねにお刺身……」
カモメ6:「自然の塩味がいちばんおいしいんだよ。天然あらじおで」

●ウトロの夕暮れ  1995.10/11 17:05
バラ色に染まったウトロの夕暮れ。傍らにあるのは波の音。刻々と色が変わっていくヴァイオレットの空。

●知床半島の岩肌(心象風景)  1995.10/11
15時15分に見た風景を夜の宿で再現してみた。初めての試み……。
岩には岩の色がある。グレー、セピアピンク、岩の上には木々と草。紅葉になりかけの葉はカラシ色と枯れたグリーン。その上は山になっていてワイン色、それに黒を足してみる。あずき色に少し水を入れて、それにオリーブグリーン。その一番上は白い雪が見えた。あれが硫黄山。
海の色は深い緑に黒を入れる。青じゃない。太陽があたっているところは群青色。泡は切れ切れに白。水がはじけて白い。

●秋の色(白滝付近)  1995.10/12 16:19
静かに車窓を見ていた。秋の色がふりそそいでいる。

●網走刑務所  1995.10/10
放射状舎房。明治45年3月31日竣工。金子馨、佐藤源之烝の設計。気持ちよく晴れた網走。

●民宿の食事  1995.10/11
ウトロの宿泊は民宿菊やがお薦め。
(1988年晩夏)

 


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