●１月１日 晴れ 《バンコク→香港→ソウル》
バンコクでつくった新しいパスポートを胸に、夏の国タイから冬の国ソウルへやってきた。新しいパスポートとは……、つまり、ぼくは年末にタイでうかつにもパスポートとトラベラーズチェックを盗まれてしまったのである。近ごろ某方面から《スズキキイチは旅の達人》とひそかにささやかれていたのだが、本件で《スズキキイチは旅の出来損ない》ということになりそうだ。 （SEOUL）
●１月２日 ？ 《いきなり夜になって、マシイッソヨー》
目を醒ましたらいきなり夜になっていた。旅の疲れに風邪気味の体調が重なって、たよりなく眠り続けていたのである。今日のソウルはいったいどんな天気だったのだろうか。夜９時過ぎ、ようやく鐘路大街へ繰り出した。新羅という韓食店の二階で食べたのはプルコギ、石焼きビビンバ、そしてＯＢビール。味の方は昼食をしっかり抜いたせいもあってマシイッソヨー（うまいヨー）。その後、腹ごなしに狭い路地を散歩していたら、怪しい男につけられている気配だった。用心、用心、新パスポートにご用心！(SEOUL）
●１月３日 晴れ 《雪嶽山桃源郷へ》
金浦空港国内線ターミナル。束草（ソクチョ）行の飛行機に乗ろうとするが、「今日は強風のためフライトしません」というキャセル表示。せっかくがんばって航空券を買ったのに……、やはりぼくは陸路向き貧乏旅行者ということか。 気を取り直して、ソウル江南高速バスターミナルからソクチョへ向かう。夕暮れの車窓にはキントンみたいな雲が右手に三つ浮かんでいる。（SOKCHO）
●１月４日 晴れ 《日が沈む》
ソラクサンの夕暮れは絵具が凍る。画面も凍る。空は刻々と色を変える。山の中へゆっくりと日が沈んでゆく。見ているぼくの胸をうって沈んでゆく。そのスケッチに打ち込んでいたら、帰りの山道はすでに真っ暗だった。どこからか熊が出そうな気配だ。（SORAKSAN）
●１月５日 晴れ 《中央市場のメウンタン》
中央市場は元気なアジュマたちの舞台。イカと白身の魚をすばやく捌いてお刺し身にしてくれた。イカ刺しはまだコリコリと動いている。コリコリコリコリ、マシイッソヨー。魚のアラでつくったメウンタン（魚と野菜の辛いスープ）がまたまたマシイッソヨー。久しぶりに大喰いしてしばらくオンドルの床に横たわっていた。
海の見える大浦洞のカフェ『マトラス』で柚子茶を飲んだ。店内にはケイウンスクの歌が流れている。あなたがくれた／愛のあかりを／とわに／吹きけさないで／命の限りを生きる／サラゲーミヨー（SORAKSAN）
●１月６日 曇り 《ミステリアス・ソラクサン》
ケーブルカーで山頂へ。霧でほとんど奇岩が見えない。ミステリアス・ソラクサン。雪溶け水で岩山を描く。山は日々その相貌を変える。
ソラクサンでお世話になったのは７番のバス。そしてそのバスの中で３日も立て続けに会ったあの客引き「赤のアジュマ」の顔が忘れられない。（SORAKSAN）
●１月７日 雪
雨は雨が描いてくれる
雪は雪が描いてくれる（KANGNUNG）
●１月８日 雪 《五台山寂滅宝宮雪中行》
KYOWA YUKINO NAKA O
ITSUMADEMO ITSUMADEMO
ARUITE IMASHITA
MAFURA O ATAMAKARA KABUTTE
ARUITE IMASHITA
ITSUMADEMO ITSUMADEMO（ODAESAN）
●１月９日 晴れ 《ソラクサン山中之行》
夕陽の中を 陽（ヤンヤン）から春川（チュンチョン）に向かっている。
ソラクサンの雪道を走るローカル・バス。空はますます朱に染まり、喬木が曲がりくねって天に伸びている。切り立つ岩山は幽玄の世界、夜の色が徐々に重ねられていく。（CHUNCHON）
●１月10日 晴れ 《春川→ソウル》
雪に舞う枯れ葉のごとき旅哀し
川が友達 影が友達（SEOUL）
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