AYUMI GALLERY

1997.04.18 fri. 〜04.23 wed.


はいじま伸彦 
はいじま伸彦個展

私は大学で版画を専攻していましたが、いわゆる版画そのものより、版のプロセスが絵画の制作にどう影響し、また役に立つのかということに関心がありました。絵画の制作過程は直線的で一回的ですか、版画は制作プロセスに編集可能性を持っています。版のプロセスを絵画制作にはさみこむことで絵画に対してより自由なアプローチがとれるのではないかと考えていました。それが私の一つの出発点です。

 私は絵画の構造に関心があります。
 絵画を成り立たせている骨組みのようなもの。
 音楽にたとえれば曲の部分、音と音の関係そのもの、どのようにも演奏可能な音素の関係自体に興味があります。音楽には作曲と演奏の二つの側面がありますが、作曲行為は基本的に編集からなります。スタジオ内における今日の音楽制作現場ではテクノロジーの発達によって編集可能性は極限に達しています。そこではなんどでも作り直しが効き、そのつどそれがのこっていくので後に聞き比べることができます。一方で音楽の演奏においてはやりなおしはききません。時間は一方向的であり、失敗したらまた始めからやりなおさなくてはなりません。
 ところで絵を描くという行為は演奏的です。キャンバスという一定のフレームを選択したらその中で一方向的に進むしかありません。上に相を重ねていくので積み重ねた下の層は損なわれ、消えていきます。下層と上層を見比べて判断することは出来ません。常に一回的であり、最後には一つの画面が残るだけです。
 それに対して版画というものはまた違った特性を持っています。同一イメージが何度でも得られる、そのことによって絵画制作が演奏的であるより作曲行為に近いものになってきます。そこで得られるイメージの編集可能性、自由な時間性に興味があります。なぜなら手の癖や慣習的な技量によらずにより自由で豊かな制作の可能性をそこに感じるからです。可能性に満ち、事故の起こりやすい状態、そういう状況を作り出し観察し、興味深いなにかをそこから拾い上げること、自分の予想を超えて現れるものに自ら驚かされる、そこで発見したものをきっかけにまた駒を進めるというように制作したいと考えています。
 一つの曲において重要なのは実際になっている音自体ではなく、音と音の関係そのものです。どのような音を乗せても曲自体は変化しません。音楽は単に音がある関係をもって配列されているだけの、極めて即物的なものですが、それが意図的であれ、偶然であれ、的確であれはあるイリュージョンを発生させることになり、それが「音楽」と呼ばれるのであれば、絵画においても「音楽」と呼ばれる領域があると考えます。
 自分の作品が単なる構成を超えて音楽的、絵画的イリュージョンをもつようになれば、と思っています。

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