鈴木喜一建築計画工房
[調査・所見] File no.66

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旧高橋建築事務所(アユミギャラリー)



所在地/東京都新宿区
創建/昭和29年
種別/木造2階建て
調査・所見/鈴木喜一
掲載雑誌/『住宅建築』(1993.6
































 

旧高橋建築事務所(アユミギャラリー)所見

 
この建物は新宿区矢来町114の725.12平方メートルの敷地内の一角に、高橋建築事務所として昭和28年11月に上棟し、翌年の昭和29年に竣工したものである。小屋裏に上棟の棟札が現存しているのでそれを裏づけることができる。
当初は直屋(単純な矩形の建物)として計画した、と設計にあたった建築家高橋博(1902〜1991)は語っていたが、竣工後(あるいは工事途中)、間髪を入れずにL型に増築していて、この部分の屋根は四寸勾配の瓦屋根になっている。主要部と増築部との意匠や素材、取り合いや仕上にいたるまで違和感がほとんどないこと、さらに高橋家の聞き取りを照合すると、増築部も含めて同年の完成と見てよい。
設計者である高橋博については、建築評論家の長谷川堯氏が「忘れられた建築家高橋博の建築とその半生」と題して雑誌『住宅建築』1985年10月号で詳しく論じている。大正12年、ロンドンに渡って建築の修業したという特異な経歴を持った高橋が、帰国した昭和5年以降につくった住宅建築を紹介した特集だが、その末尾に、旧高橋建築事務所(1F アユミギャラリー)の建物も掲載されている。
その作品群は、高橋の出自を物語るかのようにイギリスのカントリーコテージの気配を感じさせるものが多かった。旧高橋建築事務所(1F アユミギャラリー)もその気分を濃厚に感じさせる空間で、ハーフティンバー風のファサードはむろん、内部にいたっては、アルコーブ(Alcove)廻りのデザインや、方杖の鑿の手技などに、人の心を通わせるものを持っている。1984年に建築事務所からギャラリーとして内部空間を開放してからは、地元神楽坂のみならず、一般に広く親しまれる建物となって現在にいたっている。尚、二階はいまも建築事務所として使用されている。
以上のように、旧高橋建築事務所(1F アユミギャラリー)は、戦後に復興された神楽坂の町並みを代表する建築物のひとつということができ、登録有形文化財登録基準(平成8年文部省告示第152号)の「一、国土の歴史的景観に寄与しているもの」に該当するものと考えられる。(鈴木喜一)

 



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