光対談その5 中国の旅を終えて

望月祐志(YM)×鈴木喜一(KS)

■KS

望月さん、久しぶりのアユミギャラリー登場でしたね。

 

■YM

いやいや、先日はお邪魔しました。吉田桂二先生の展覧会オープニングパーティということもあって、やや(かなり?)ちゃっかり気味にご相伴に預かってしまいました。(笑) ありがとうございました。神楽坂建築塾塾長の平良敬一先生も来ておられましたが、10月27日〜11月4日の間、写真家の大橋富夫先生、それに塾生をお連れになって中国に行っておられたとか。鈴木先生も、やや風邪気味のお声ですが、あちらは寒かったのでしょうか?

 

■KS

思ったより寒くなかったんですがね。寒暖の差があったり、標高も高かったりで、ちょっと疲れたのかな。毎年、秋には建築塾で中国民家探訪ツアーに行ってるんですよ。今度で7回目なんだな。望月さんも今度同行しない? おもしろいよ。そういえば、そろそろ来年度の塾生募集も始まるなあ。来期は第6期になるんですよ。また参加しない。オブザーバーでもいいんですが……。

 

■YM

どうもありがとうございます。そうですねぇ、土日の坐学を気楽に聞かせていただいたり、フィールドワークに乱入するとかいいかもしれません。(笑) ツアーに行くには、私の商売、なかなか連続的にお休みを取れなくて難しいのですけれど、それに職場が変わったばかりですから。しかしまぁ、毎年この時期になると言ってるかもしれないですけど、建築塾はよく続いてられますねぇ。(笑)

 

■KS

いやはやほんとに。ひょっとしたら神楽坂建築塾は不滅かもしれないよ。(笑)志望してくる塾生も誠実だし、平良塾長を筆頭に講師陣もたいへん熱心ですからね。それに理念が明確ですし、既存の大学ではできないカリキュラムを構成しているつもりですからね。ま、ともかく、今回のツアーも有意義だったし、とても考えさせられるものだった。中国は行くたびに新しい発見・認識があるなぁ。

 

■YM

平良先生も先日のパーティでの懇談で言っておられましたね、「繰り返し見ていくことで発見が重なり、その土地固有の暮らしや生活風景を通じての理解が深まっていく……何度も訪ねるということは意味があるのだ」と。建築塾のツアーで行かれるところは、中国でも、どちらかというとルーラルなエリア(笑)が多かったりして、上海などの「経済主導の都市エリア」とは違う、ある意味で原初的な人の暮らしぶりが残っているのかもしれないですね、ネットも携帯も無いでしょうし。逆に日本はブロードバンド(アユミにもB-fletsが引いてあるわけですけど)は当たり前になってきているし、

携帯もi-mode以降は多機能なものが普及してて、どこでもネットに繋げる……という状況ですけれど、「暮らしの本質」とはまたちょっと違う要素かもしれないなぁ、とも思うこともあったりして。(笑)

 

■KS

中国に行くとね、日本を相対化出来るというか、人が暮らしていく「本質的な要素」がはっきり見えてくる。今回見てきたところで言うと、モソ人の母系社会のことが印象的ですね。そのコミュニティが抹殺されようとしていることもあるんですね。

 

■YM

私、あまり中国のことは知らないのですが、確かモソ人は湖の多い雲南省の少数民族 でしたっけ。母系社会というのは、結婚制度とかの形式を取らない社会……

 

■KS

そうそう、「男の通い婚」ですよね。母親が家の中心なんですね。そこに民泊していたんですがいろいろ考えさせられました。

 

 

■YM

抹殺というのは穏やかな状況ではないようですが、具体的には、中国の”近代化の波”が、北京や上海などの沿岸部・人口集積エリアだけでなく、内陸の方にまで及び始めているのでしょうか?

 

■KS

抹殺というのはね、具体的に言うと空港問題なんです。その村に空港が建設されようとしている。わざわざね。母系社会を破壊するためにです。

 

■YM

うーん……、そうなのですか。空港建設というと、「資本主義の論理」によって駆動される代表例みたいなものですね。中国の近代化の波が、内陸部にまで及び始めている……、というのですか。村での仕事の内容は激変しそうです。もちろん、外部からの人の流入がかなりありますね、建設工事に伴い、あるいは開港してからも。コミュニティにとっては、摂動どころではなく、既存の様態が相転位してしまうインパクトがありますね。「経済的には豊か」になってはいくのでしょうけれども、母系社会としてはもはや成り立たなくなっていく……、今回の滞在取材は、特に貴重な記録になるのかもしれないですね。

 

■KS

そうなんですよ。これから『住宅建築』誌上に発表する原稿をまとめなくちゃいけない。空港はどこにつくるべきかとか、母系社会は人類学的な意味からも壊してはならないとか、いろんな提案を試みるつもりです。話はかわりますが、来週はフランスに行くのですよ、今度は美術塾でね。パリ、それにノルマンディあたりをあてもなく8人でうろうろと……。

 

■YM

ノルマンディは北西の沿岸部で、農業が盛んなところですよね。林檎からつくられるカルバドス、それに白カビのチーズ(カマンベールやブリー)とか。実は、フランスは農業も主要な産業なのですよね。パリの町並みとノルマンディの農村の様子、それぞれに平良先生が言われる「土地性」があり、スケッチや写真で描写される表現も特徴がありますね。帰国後、土産話と共に作品を楽しませていただきます。それでは、気をつけて行ってらして下さい。

 

■KS

行ってきます。(笑)

この対談はインターネットを経由したバーチャルコミュニケーション であり、「Vol.1」 「Vol.2」「Vol.3」「Vol.4」の続編となるものである。

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