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神楽坂建築塾公開講座『巨大都市の解体に向けて』をどう聞いたか 望月祐志(YM)×鈴木喜一(KS) |
YM● 先日の神楽坂建築塾の公開講座『巨大都市の解体に向けて』は1時間半の時間ではもったいないくらい中身の濃い話でしたね。 KS● ほんとうにあっというまの時間でしたね。延長して2時間くらいの講座になりましたけど深く考えさせられる内容でした。去年からこの関連の講座を開いているのですが、まだまだとうぶん論議していかなければならないですね。 YM● コーディネータの佐奈さん、パネルの沢さんと青山さん、それぞれのお考えがよく出ていました。私も、東京の都市光景を撮ってきたり、興味を持って東京、あるいは広義の都市に関係する書物とかめくったりしてきている中で、最近の都心の再開発については『やりすぎ』という思いが強くなってきてました、特に、200m級超高層が狭いエリアに密集している汐留地区(※)。しかも、ビルのデザインも海外の巨匠(ジャン・ヌーベルの電通、リチャード・ロジャースの日テレ、ケビン・ローチのシティセンター)が好きなように(=治外法権的に?)やってるので、派手な外観のものが……。沢さんが、赤レンガ仕上げの東京海上ビル(前川國男設計)の「美観論争」(東京大学工学部都市工学科の「美観論争に関するページ」)にもふれてられたのですが、汐留では「論争」なんて起こらないですよね、あれだけ一度に各ビルの都合で建ってしまえば。(笑) |
この対談はインターネットを経由したバーチャルコミュニケーション
であり、
パネリスト 汐留地区……東京都港区の銀座・丸の内・霞が関などに隣接した再開発地域。敷地の大部分は1986年に廃止された旧国鉄汐留貨物駅のターミナル跡地でその規模は都心最大の31haにもおよぶ。 |
KS● 11月に建築塾のフィールドワークで六本木開発が終わってから初めて行ったのですが、実際に歩いてみて唖然としましたね。横暴ですよ、あんなまちのつくりかたは。あの場所に染みついていた歴史とか文脈をきれいさっぱり断ち切っていて、平然としてでかいつらをしている。ヒューマンスケールなんて見当たらない。僕がこのところさかんに言っている“都市を辺境化していく装置”なんか何もない。未来は、過去を大切にしないと成立しないんですよね。 YM● そうでしたか。(笑) あそこは、飲食店もけっこう客単価は高いそうですね(知人談)。ともかく、超高層におけるヒューマンスケールの欠如の問題、特に垂直方向のスケールアウト、あるいは青山さんが挙げた“威嚇物としての塔性”が、パネルの方の議論、また平良先生のコメントの中にも繰り返し出てきました。沢さんは、特に、子供が育つ環境としての問題を例に出してられましたが、子供に限らず、やはり、超高層って住むにはちょっと……ですよねぇ? KS● そうですよね。住むところは当然ですが、オフィスとしてでもどうなんですか?
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YM● いわゆる2003年問題(※)が、IT化やセキュリティの文脈で、佐奈さんからもありました。 KS● そうそう、それなんだよね。僕が言っている都市の辺境化っていうことは。アジアの山奥によく行っているんですが、ほんとうに暮しやすそうなんですよ。無理がなくってね。このままでいい、文明の波が押し寄せてこないようにって祈りたくなります。 |
(※)……2003年問題……都内でおこなわれてきた大規模都市開発(丸ノ内、汐留、品川、六本木など)によってオフィスビルが相次いで竣工することで発生する問題。オフィス面積の供給量は増える一方、長引く不況のため入居者が現れず、新築のビルでも空室率が上昇する可能性があること。 |
YM● 歴史的、宗教的なコンテキストを無視した“形式輸入”のツケが出てきてるのかも。私はつくばに6年居たことありますけど、“形式輸入”の人口都市として、あそこは(個人的には)まさに悪しき事例。(笑) 沢さんが多摩NTには「人の気配のない場所がかなりある」とかスライドを使って話をされてましたけれども、小林のりおさん(※)の多摩NTの写真に出てきてる諏訪や永山とか古いところは、人口流出もかなり……とか新聞で読んだことあります。丘陵を無理に切って作ったから、デッキや階段を使わざるを得ないんですけど (私は、多摩にも半年住んだことあります)、それが高齢者には辛いようですし……小林さんの写真をずっと見てると、どこかに『現状、そして今後の顛末』を幻視しているんじゃないのか……と思わせられるところもあります。ちょっと脱線しました。 (笑) KS● はは、ちょっと軸を戻そうよ。長谷川先生に質問してましたね、9.11の話をされたことを受けて。コンペに勝ったダニエル・リベスキンド案について。
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(※)……『ランドスケープ』、『ファーストライト』には多摩NTの開発の光景が収められている。92年、木村伊兵衛賞受賞の写真家。近年 はデジタル写真の作品を発表し続けている。 |
YM● はい。ダニエル・リベスキンドの案が“旧WTCよりも高いタワーを持つことの意味”についてのコメントをいただきたかったです。ユダヤの影、アメリカの前進志向のオブセッションのお話など、思わず膝を打ったんですが、この旧WTCを設計したのが日系のミノル・ヤマサキ氏です。彼は関わった団地についても悲劇を被っているんですよね。というのは、イギリスの60年代の高層アパートが、犯罪多発、コミュニティ崩壊の問題から爆破解体されて、代わりにタウンハウスが出てきた……というのが長谷川先生と沢さんの話の中で出てきた時に、ヤマザキ設計のブルーイット・アイゴー団地も同様の問題から爆破されたという話を読んだことを思い出したんです、確か南雄三さんのコラムかなにかだったかな。 |
南雄三氏……神楽坂にほど近い市谷の自宅でビオトープをつくってしまった住宅技術評論家。住楽考主宰。 |
KS● 平良先生の話はよく理解できましたね。僕もしばらくパリの屋根裏部屋に起居していたことがあって、もちろんエレベータがなくて階段でグルグルあがっていくわけですが、ちょうどそのくらいの高さでした。大地と空との関係が自分の足腰で無理なく把握できるっていうことはとても大切なことですよね。その過程で住人ともすれちがうわけです。都市の住まいというのはせいぜいそのくらいの高さで止めておきたいですね。つい先頃みんなで訪れた中国雲南省・四川省の集落(モソ人の村)(※)はすべて二階建て以下の校倉造でした。そこにはほんとうに豊かな生活がありました。 YM● 対談#5でモソ人の話になって、その後でパリとノルマンディ(※)に美術塾で行かれたわけですよね。『人の暮らしの中の本質的な豊かさ』を改めて実感されたんではないでしょうか。 KS● へへ、そうなんです。消えさせていただきます。 [年明け#7へ続きます] |
(※)……神楽坂美術塾番外スケッチツアーとして2003年11月18日から26日まで、フランスノルマンディー地方を訪問。 |
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