誰にも見えやしないけれど光が静かに流れてる  Vol.8
「“コミュニティ”の存在について考える」
『かんかん森』『松陰コモンズ』より
望月祐志(YM)×鈴木喜一(KS)

YM● ご無沙汰していました。ちょっと仕事が年度末で忙しかったものでして……2月の『人間漂流』の初日には伺ったんですが、あいにく横浜の方へ出張されていたと奥様には伺いましたが、ついに新型Mac(iBook)を購入されたとか。(笑)『人間漂流』の展示の方は、“笑み”が主題ということで、ヒューマンな作品が並んでいて暖かい印象でしたし、木造でちょっと古め(笑)のギャラリー空間が醸しだしている居心地のいい空気感によくマッチしていました。“時間を経てきた場の力”というのはあるかもしれないですね。
 ところで、先日の第五期の最終公開講座『戦後の建築・デザイン運動をふりかえる』を聴かせていただいた時も気になっていたのですが、結局のところ建築塾の応募の方はいかがですか?

KS● 現在(2004年3月17日時点)、法人塾生・継続研究生を含めて応募者は70名前後となりました。いま、事務局で応募動機を読んでいる最中で、明日には平良塾長と選考会議をします。今年は四国の徳島や新潟他、地方の応募が多々あり、気骨のある内容が目立ちます。
 第六期にもなるし、そろそろ平良塾長と講師陣・法人塾生・研究生を核としたサロンを形成し、自由に議論のできる場をつくっていきたいと考えています。そろそろ社会的にもコミットできるような運動体にしていきたいですからね。望月さんもぜひ参加して下さいよ。そうそう、今期の建築塾の通年テーマは知ってるかな?
 『古いまちや集落に学ぶ★ほんとうの豊かさとは?』

※この対談はインターネットを経由したバーチャルコミュニケーション であり、
Vol.1」 「Vol.2
Vol.3」「Vol.4
Vol.5」「Vol.6
Vol.7の続編となるものである。



▲第五期神楽坂建築塾最終講座(2004年3月14日開催)

YM● どうもありがとうございます。そうですね、そうした人脈の広がりが出てくると有意義ですし、また楽しいですね。それで、そのテーマ『ほんとうの豊かさとは何か?』にも関連があると思うのですが、前回の#7の最後でちょっとお話しました 『かんかん森』というコレクティブハウジングの先導事例(荒川区東日暮里に2003年5月末に竣工)と、古民家を改修して小規模なシェアードハウスとして使っている 『松陰コモンズ』(世田谷区世田谷で約2年前にスタート)に、取材に行ってきました。どちらも、#6から批判の的(笑)になっている「超高層マンションに住む」とかとは違う“豊かな住まい方”をされていました。何がキーワードかと言うと、“コミュニティ”の存在ということなんですね。これは、コレクティブの根幹的な考え方ですね、運営に関わっているNPOであるCHCのサイトにも、 各事例のHPへのリンクを含め、いろいろと情報が出ていますけれども。

KS● ふーむ、「コミュニティの存在……」ですか? これからの住まいを考える上でとても重要なことのように思えますが、もう少し具体的に聞きたいな。まず『かんかん森』の名前の由来から始めて教えて下さい。

YM● 名前の由来なのですが、“かんかん”とは“神々”を意味し、近所に猿田彦神社があり、古代には付近一帯が深い森であったという来歴に因んだものとのことで、建物前の道路の名も“かんかん森通り”、ということで、そのまま『かんかん森』となったそうです。そのHPには【(前略)コレクティブハウスの居住者自身が「森」のように生き生きとした住環境を育てよう、という意味合いが込められています。】の記述もあります。現在、年齢的には幼児から70代までの多世代・多形態な34名の方が賃貸にて生活されていると伺いました。

KS● “森のように生き生き”とね。現在、日本の森はかなり危機的な状況にはあるけれど……、「新しいコミュニティを作っていく」というモチベーションは伝わってくるね。
 それは、ま、おいといて、『かんかん森』の建物としてはどんな感じなんですか? まさに森のような感じ? というわけにはいかないかな? 見ないとなんとも言えないですね。ライフハウス・シニアハウスといった福祉施設の共存になっているんだよね。いまちょうど根岸の現場が始まったから、機会を見て伺ってみようかな。

YM● そうですね、ぜひご感想を聞かせてください。実は、私がこの前伺ったのは定期説明会の日だったのですが、専門の研究グループ、あるいはマンション業者さん達もかなり居られました。コレクティブの考え方・システムの話から、実際の暮らしまでまとめてお話をいただけたので、よかったです。『かんかん森』の建物全体としては上記の福祉ハウスの占有度が高くなっています。外観は12階の中層のマンション風の建物になっています。コレクティブのためのエリアは2-3階ですね。

KS● マンション業者がねえ、ちょっと危ないんじゃないの? それに12階なんて、ちょっと(周囲にとっては)ひどいかもしれないよ。

YM● たしかに、ちょっと突出した高さにはなってますね、元の敷地は中学校だったそうですが。ただ、“地域へも開かれた存在”になるように努力されていることは間違いないです、そうしたお話は伺っています。
 さて、『かんかん森』での暮らしについてです。『まちづくり』誌にも出ていましたけれども、(株)生活科学運営が事業主体、それでCHCが実際の運営・コーディネートにあたりますが、あくまでも住まい手が主役となって、共同空間の利用や共同食の実施などの生活を営んでいます。ガーデニングや木工、あるいはIT(パソコンやネット)などの分野ごとに14ものグループがあって活動しています。私は、ネット導入の時にBフレッツのマンション回線をご推薦したのですが、結局はTEPCOさんを選択されたそうで、専門家が入居者に複数名居られたことから、屋内LANの配線はご自分たちでケーブルを引っ張っておやりになったとのこと。これが、かなりの節約だった! と自慢をされてました(各部屋には、LANのソケットがある)。ITに限らず、各グループは個々人の得意・興味分野を活かせるように構成されているそうです。

KS● なるほどね。実験的な生活の試みですね。そんな中からコミュニティが徐々にできあがっていくのかな?

YM● そうですね、きっと日々の生活の中で醸成されていくのではないでしょうか。コレクティブの根幹の要素である共同の夕食は週に3日、全員が交替で持ち回り5班のグループで調理にあたられるとか。3人当番は月1回ほどまわってくるそうです。機材も家庭用のものではなく、多人数分を効率よく・おいしく作れるプロ用のものも導入されていました。共同食、目的別のグループ、こうしたコミュニティの営みの仕組みは、基本的に全員参加となる定例会において決められ、修正されていくとのこと。ある居住者の方がお話されていましたが、【こうした居住者コミュニティの“ソフトウェア”は(居住前からのワークショップなどを通じて)自分達で作り、改良してきているもので、マンション業者さんが“商品”として提供していくものとは違う。コレクティブハウジングの“形態”だけを導入しても、なかなか上手くいかないのでは……】と話をしてくれました。この方はお子さんがまだ小さいのですが、【子育ての上でも、幅広い世代の方と日常的に接してもらえることでコレクティブにはメリットがある……】とも言われてました。

KS● 確かにねえ。僕なんか家族単位で暮しているから、なかなか実感がわかないけれど、おもしろそうでもあるし、なんだかちょっとめんどくさそうな感じ(笑)もありますね。慣れればおもしろいことになるのかな。時代は、もうそんなふうに動き出しているのですかねえ。ちょっとわからないところです。少なくともそこは“血縁のない家族”が集まってある種の“コミュニティ”を意識的につくろうとしているんですよね。
 うーん。でも考えてみると、僕の家の隣りの『一水寮』とか『柿の木荘』にはなんとなく若者(建築・写真・編集関係が多い)が集まってきて、“集住体”になっているけど、あの形態はどういうふうに捉えたらいいんでしょうね。かなり、自然な成り行きなんですけどね。

YM● コレクティブハウジングについてですが、鈴木さんらしいコメント(笑)ですね。『かんかん森』は、居住空間を(建物の一部を借りる形だが)新築したこと、それにコミュニティ規模を当初から30〜40名としていたことから、ワークショップや定例会などの“ソフトウェア”がある程度システムとしてきちんとしていないと、全体が立ち行かないところがあった(・ある)と思います。その意味では、完全に“住まい手による意識的なコミュニティ”の形成ですが、これはコレクティブの本質でもあります。
 その辺、鈴木さんにとっては「きっちりし過ぎてる……」と見えるかもしれませんね。

KS● 実はあんまり大きな声では言えないんですけど、建築塾の運営でもね、「きっちり仕組みをつくる前に、まず動いた」ということがありますね。かなりエモーショナルにね。その場、その場で一番いい判断をしながら(とまあ思っている)これまで5年間カリキュラムを積み重ねてきた。試運転の時期だったのかな? でもそろそろ意識的に仕組み(敢えて日本語で言うけれども:笑)をつくった方がいいかなと思っていますよ。 コレクティブの話からずれちゃったかな。

▲季刊『まちづくり』:休刊した『造景』の編集者だった八甫谷邦明氏が、『造景』の志を受け継ぐべく2003年に発行を始めた"まちづくり"のための雑誌。出版は京都の学芸出版社

YM● はは……いやぁ、ほんとに鈴木さんらしい(笑)。ま、神楽坂の『一水寮』や『柿の木荘』に話を一応戻すんですが、人数的にも少ないし、世代的にも20-30代くらいで、仕事や嗜好もけっこう関係、あるいは直にオーバーラップがありますね。  生活の場となる建物も、鈴木さんを始め周りは建築関係者ばかりだから(笑)、既設のものを適宜リノベーションして使ってるわけですしね。ま、なにより鈴木さんの“親派”ということで、“定義的なコミュニティ”というより“コミューン”に近い様子で自然に集まってきてる感じがあるし、ちょっと“結晶成長”に似てるかも。
 なので、やっぱり、フラットなところから始ってコミュニティを形成していった『かんかん森』と『神楽坂コミュニティ』は発生論的に違いますね。建築塾も当初は“結晶成長”的だったかもしれない。私自身、第一期では鈴木さんに感化されて入ったようなものだし(笑)。
 それで、規模的には『かんかん森』よりぐっと少ない『松陰コモンズ』の方に話をふりたいタイミング(笑)です。こちらは、居住者数は7名で、生活空間としては築150年あまりの古民家のリノベーションという形になってます。物件としては、大家さんが5年限定ということでCHCに空間を提供する形になっています。リノベーションは、ガスや電気などのインフラを除けば、CHCメンバーの中の建築家が主導して住まい手も関わって行っていったものと聞いています。広間は、様々な交流の場として音楽演奏会や講演会にも使われているとのことで、“地域にも開かれた部分”が確保されています。
 ただ、古いだけあって、オープンから2年経ったいまでも“手直し”を要する部分が出てくるそうですが、まま、そうした点をも楽しみながらやっておられる。もちろん、費用はかかりますねけれども(笑)。
 五十嵐太郎さんの『リノベーション・スタディーズ』にも何度も記述がありますが、 「リノベーションは安上がりな方法ではない」ということのようです。やはり、 「古いものを活かして使っていく……」というモチベーションが重要なんですね。民家、古建築のリノベーションを多く手がけてられる鈴木さんなら『松陰コモンズ』の方に、より関心を持たれるかもしれません。人数的な少なさがいい面として機能しているのだと思いますが、“ソフトウェア”としても、割と軽く、緩やかなものになっているようです(それでもなお、「馴染めず」に転出された方は居られるのですが……)。 いかがですか?

KS● 築150年の古民家を残していく、活用していくという大きな(思想的)柱はとても貴重ですね。僕なんかは、そういう場所こそ、集まって住むことの本質を体全体で感じられるんではないかと思いますね。地上から浮いた高層ビルではないわけだし、限りなく地べたに近い。そこでは農作業なんかもできたりするだろうし、ちょっとした小屋もできてアトリエになったりする、というようなことまで夢想しますね。とても“人間的な生活”になるはずですよ。そういう芽をいっぱい増やしていって、それをうまく繋げていって都市も捨てたもんじゃないな、っていうところまでいかせたいですね。
 そういう生活は都市だけじゃなくて、むしろ田園の方がしやすいかもしれないですよね。我々はいま、『新田園都市構想』といって、大都市の一極集中の気圧をどう抜いていくかということを考えてますけれど、“古民家再生”、“リノベーション”というのはそこに繋がる大切な要素ですね。でも『松陰コモンズ』の場合、5年限定というのは、どういうことなのかなあ。せっかくコミュニティができあがっても、その後に離散してしまうの? いろいろ大家さんにも都合があるのかな?

YM● はは、流石の“鈴木節”ですね。期間の事情については、私もよくは存知上げないのですが…… だからこそ……の“実験”でもあるでしょう。そして、そこで培われた“ソフトウェア”は離散とかでなくって、飛び火のように広がっていくものと期待できますね。
 それで、リノベーションに関して、もう一つ。これは、『かんかん森』の見学の時にCHCの不動産担当の方との雑談していて出てきた話なのですが、千代田区や中央区の“古いビル”の空きが、このところ目立ってきているそうです。そう、例の“IT化の波”の煽りで、オフィスが新鋭のビル(超高層とは限らないけれども:笑)に移っていってしまって……。それで、オフィスから住居への転用、ま、リノベーションですね、そうした問い合わせ・案件がけっこうあるのだそうです。それで、googleでちょっとやってみたら、『東京R不動産』なんていうのが見つかりました。ここに出てる物件、けっこうおもしろいです。もちろん、一人で住むのにはちょっと高いんですが、物件の広さに応じて同好の人たちが緩やかに集まってシェアし、“コミュニティ”をつくるなんていうこともできるかもしれないですね、アトリエとかデザイン事務所とか……、ちょっと都心指向の文脈になってしまいますけれども。『松陰コモンズ』的な小規模なアプローチが上手く機能する可能性もありますね、もちろん、 “ソフトウェア”が必要になりますけれども。ま、『東京R不動産』のページを見ているだけでも、ちょっとそんな気がしてくる。

KS● “IT化の波”の煽りで、“古いビル”の空きですか? 僕のところの高橋ビル(アユミギャラリー奥・B2が神楽坂建築塾教室)も気をつけないといけないな。いまのところ全室がオフィスなんだけれど、何にしたらいいのかな? 少しでも都市の緑化に貢献できるようなものにしたいところだけれどね。そういう意味では、ビルの前にあるちょっとしたポケットスペースに欅の木を植えたのはよかったなと思っています。あの中庭は望月さんも気にいってるでしょ(笑)。
 来月はいよいよ『田園都市構想をどうつくるか』という演題で建築塾サロンが開催されます。その報告もこの対談でやりましょう。
(了)

 

 

 

 

 

 

 

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